あでゆ

ディストラクション・ベイビーズのあでゆのレビュー・感想・評価

3.1
愛媛県のこぢんまりとした港町・三津浜の造船所に2人で生活している芦原泰良と弟の将太。けんかばかりしている泰良はある日突然三津浜を後にし、松山の中心街で相手を見つけてはけんかを吹っ掛けていく。そんな彼に興味を抱いた北原裕也が近づき、通行人に無差別に暴行を働いた彼らは、奪った車に乗り合わせていた少女・那奈と一緒に松山市外へ向かう。

ディストーションの聞きまくったイントロが印象的。前半に関しては暴力映画やドラマというよりむしろ個人的には『It follows』的なホラーに近いと感じた。一回手を出したら負けるまでどこに逃げても永久に襲ってくる暴力マシンは、人間というより悪霊に親しい。殴る音とかもかなり現実的で修飾されてない感じがきつかった。

俳優たちの演技は軒並み素晴らしく、特に柳楽優弥の人間味を全く感じさせない機械のような演技(ある意味でデウス・エクス・マキナだ)と菅田将暉の小物感溢れる演技は迫真だ。特に最初の背中を追う長回しから漂う雰囲気がとても良い。
しかし、女子供構わず暴力を振るう姿は素直にきつい。僕にはこの映画がここまでやって描きたいものが何なのかよくわからないし、あったとしても不愉快の度合いのほうが強いと感じた。

ただ自分で思うのは、仮に本作が「実話を元にしています」と言われたら、「こんなひどいことが行われてたんだな」と感心しながら楽しめるんだろうなということ。しかし『冷たい熱帯魚』とか『凶悪』とかは彼らなりの論理というか、暴力を行う理由があるから納得がいく。それは『ダークナイト』のジョーカーも同じだ。比較して、この『デストラクション・ベイビーズ』は単なる暴力装置に過ぎないから不快に感じるのかもしれない。まあ不快に感じるのが正解なのかもしれないが。

後半は本作が実話かと思わせるような演出へと映るが、ここまで前触れなく無機質な作品を描くなら、このパートは不必要にも感じた。
一方でラストの弟パート、開幕とほとんど同じシーンになっている円環構造では、弟が育ての親と祭りの存在(現実からの逃避)によって救済されることで、暴力の伝染から免れることができるという話だろうか。泰良(たいら)というから『ファイトクラブ』を目指したのかと思ったが、観てみると全く異なる作品だった。
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