猫脳髄

変態殺人犯!!鉄ノ爪野郎の猫脳髄のレビュー・感想・評価

変態殺人犯!!鉄ノ爪野郎(1973年製作の映画)
3.2
いい加減な邦題には苦笑するしかないが、「悪魔のいけにえ」や「暗闇にベルが鳴る」(1974)などクラシック・スラッシャーが登場する直前期に製作され、自ら”ゴアノグラフィー(Gore-nography)"を標榜した殺人エクスプロイテーション映画である。

監督のマーク・B・レイなる人物は詳細が明らかでないが、テレビを中心とした脚本仕事の方が多いようだ。女性を監禁する強烈なマザコン殺人鬼の設定は「サイコ」(1960)の影響下にあり、かつ、殺人鬼を苛む死者たちの幻覚描写などは「恐怖の足跡」(1962)を彷彿とさせる。そこにゴア表現を用いた殺人描写を盛り込むことでアップデートしたというところ。

少年期に実父を殺害し、その際の事故で片腕が義手(かぎ爪)となった主人公の青年。精神科病院の退院後、母親と再婚相手を手に掛けてしまったことから逃亡劇がはじまる。車に同乗させてくれた親切なカップルを殺害するなど逃避行を続けるなか、母親そっくりの娼婦(2役)出会い、心を奪われてしまう…という筋書き。

固定カメラの生ガタな映像や照明不足、安っぽいエフェクトなど低予算映画の特徴を見せつつ、前半の逃亡劇から後半に監禁モノへと転調してからサスペンスを高めるシナリオは、なかなか練られている。画角に凝って人物のクロースアップを90度転ばせてみたり、極端なアウトフォーカスで画面を滲ませてみたりと実験的な試みも見どころとなっている。主人公が執着する母親と娼婦を1人2役としたのを説明しないところも気が利いている。

ただ、折角の素晴らしい得物(かぎ爪付きの義手)があるというのに、クライマックスを除いて殺人に用いられることはなく(斧やペインティングナイフ)、むしろ主人公のコンプレックスとして語られる。しかも、彼が性的に不能であることが暗示され、そこは腕の欠落との関係性が興味深い。ラストでも広角レンズなどを用いた極端な遠近撮影(横たわる主人公の体が異様に伸び切っている)で幻覚演出を試みるなど、割とたくましさを感じる作品に仕上がっており、好感が持てる。
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