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かごの中の瞳のJIZEのレビュー・感想・評価

かごの中の瞳(2016年製作の映画)
4.0
"東南アジアのハブ"と呼称される国際都市バンコクを舞台に幼少期に交通事故で視力を失った盲目の女性とその妻の視力の回復によって愛を失った夫が環境の変化により生じた夫婦の複雑さを紡いだサスペンス映画‼︎想像だけの世界で生きてきた人間が現実の世界との落差に戸惑い主張と拒絶を繰り返しながらも破滅の道を辿る話に感じた。嗜好のずれや性格の差異など夫婦の特別な幻想が崩れた時にここまで態度が豹変するブレイク・ライヴリー演じる妻ジーナの心情も男目線から観れば非常に背筋の凍る物語で痛快だった。また本作は監督マーク・フォースターの新作で例えれば今月観た『プーと大人になった僕(2018年)』での森の愉快な仲間たちが存在しない延長線上のような世界観でいわゆるクリストファー・ロビンが現実に苦悩する更にその奥が隠されていた夫婦間の複雑な事情を織り込み深刻に描かれている。つまりそれまで円満だった夫婦が日頃の怠慢感や固定された依存する側とされる側の存在意義など夫婦の間で絶対とされる通念が固まれば固まるに連れてそれが取り外された際に生じる不可逆なわだかまりは関係性を破滅に導いていく。また全編は諸なラブシーンが多いので愛憎劇がどういう結末を最後に招くのか…最初から最後まで想像の斜め上を通過する今年観た中で一番意外性がある作品でした。

→総評(美を知った妻と変化がない夫の淡い終着)。
総じて全体を一言で要約すればド変態な映画です。美女の裸体やシてる最中のデフォルメなど妖艶な官能シーンだけでも印象に残る場面が多々ある。特に中盤の寝台車で夫が妻に目隠しをされ両腕をポールに結び付けられ…またその映像を夫が隠し撮りして妻の目の表情をひっそりと確認する場面とかも監督の性癖がイチイチ遺憾無く発揮されている。色々と変態要素が山盛りな作品なのでそういう意味でも目の保養となる一定の推進力が宿された快作でもあろう。また妻の欲と奔走性が視力の回復により表に吐き出されるに連れて作品の不明瞭なトーンが後半では少しずつチクチクと妖艶さを帯びて妻の視力回復で夫婦仲が変化する心理サスペンスに変化してました。もちろん後半で夫がとる非人道的な行動は擁護できないし視力回復後のジーナにも共感ができない。本作は歯車が少しずつ狂い始め気付いた夫婦の破滅の一歩手前を往来してる感じが超リアルに体現されている。夫役を演じたジェイソン・クラークの芝居でもこういう伸び代を意識せず一定の人生を歩もうと妻に強要しようとするが故に円満だった関係性のメッキが剥がれ劣悪に転じていくリアルさはお見事だったのではないでしょうか。他にも序盤,視力を取り戻した妻を夫が旅行に誘うが新婚旅行で泊まった同じ部屋と違う事から不機嫌になられたりカヌーの開き過ぎる距離感,道端で痴漢された妻に激怒しない夫の素性が悪く転じていく感じなど些細な積み重ねが蓄積されるのも脚本としては起伏あり丁寧でした。作品の苦言は大逆転が起こり得るラストでおたがいがそのまま道を踏み外した感じだろうか。というようノーマークながら超リアルな題材で最近のスリラー映画の中では間違いなくお勧めします。
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