トムヤムくん

バービーのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.5
最高すぎる。男性とか女性とかの概念を超越した、今後くるであろう未来を想定して作られた作品。全然フェミニズム映画というわけではなく、性別の役割に囚われずに、個人の意志を尊重しよう!みたいな話でびっくりした。

玩具という設定でいくらでも描けそうなのに、そこであえて人間世界を描くことをチョイスしたのがもう凄い。玩具の視点でしか気付けない人間世界の違和感というか。

だからこそ、はっとさせられる瞬間も多いし、周りも自分自身の事も、個々のことをとても大切にしたくなった。

そもそも本来「フェミニズム」って女性の地位を男性と平等するための運動だと個人的には思っていて、そのなかで最近は男性を嫌悪することが増えてきたので、今回もそういう作品になる可能性が…と思っていたら、その裏の裏をかいてきて凄かった。もはや「アンチフェミニズム」な感じ。

また女性映画ばかり撮ってきたグレタ・ガーウィグが、女性性と男性性のどちらにもしっかり触れており、男女共に薄ら疑問を感じ、違和感を覚えていた「女らしさ」「男らしさ」についてストレートにぶっ込んでくる。グレタのバランス感覚ってまじで凄いんだなって思った。

家父長制やマチョイズムに対して違和感を持っている自分にとっては、常に中立的な立ち位置にいるアランの役割にも感動した。


以下ネタバレ。

まずバービーが完璧な女性像ゆえに現実社会の女性たちにとんでもないプレッシャーやストレスを与えており、「ルッキズムが加速し、フェミニズムが遅れてしまった」と少女に言わせてしまう豪快さと秀逸さに鳥肌。

それに対比して自分の中では完璧な容姿で、完璧な世界で生まれ、完璧な生活をしていたつもりのバービーが、現実世界で怒る人や悲しむ人、無邪気な子供や年老いた人を見て「キレイ…」と感じるシーンにもどっと刺さるものがあり、このシーンはラストにも繋がるのでめちゃくちゃ本作を象徴する場面だなと思った。

一方で、ずっとバービーの付属品だったケンが、男社会の素晴らしさに気付いてしまったがゆえに、バービーランドをケンダムへと変貌させてしまう。しかし、その様子には男として身につまされるものがあり、「潜在的にある男の痛いところを突いてくるなぁ」としみじみ。

アメリカ・フェレーラ演じるグロリアが、涙無しでは語れない“女性であることの苦しさ”を熱弁し、ゆっくりとバービーランドの形を取り戻していくシーンでは、これも決して元の世界に戻すわけではなく、バービーもケンもお互いに手を取り合って進んでいこうと決意表明したことに、現実世界における「答え」を見せてくれた感じがしたのも衝撃だった。

これは映画史どころか、世界すらも変えてしまう可能性がある…!と大興奮。時代の代弁者として永久に語り継がれてほしい。


2023/08/12 ☆4.5
2053/08/18 ☆4.5