フクイヒロシ

バービーのフクイヒロシのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.5
まず僕はマーゴット・ロビーの喋ってない時の演技が本当に好きなんです。本当に表情が素晴らしい。
毎回泣きそうになっちゃう。

***

あと僕はとんでもない映画を観るという覚悟で臨んでいたので、予想を超えるとんでもない映画だったことは予想していました。

なので『バービー』楽しそう!っつって観に行った方においては、
心中お察ししますっていうか、お疲れ様ですっていうか。。

でもさぁ
『バービー 〜女性差別の過去、現在そして未来、さらに男性差別について〜』っていう日本語タイトルだったら炎上するもんね。。。


◼️「女性が主人公ならラストは結婚させるか、しなせろ」

ピンクの服着て映画館に行ったくらいにグレタ・ガーウィグ&マーゴット・ロビーで『バービー』撮るってニュースを聞いたときから期待しかなかった。

どんなパワフルな映画が観れるんだろう!と?同監督の『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』ではラストの編集長のセリフ「女性が主人公ならラストは結婚させるか、しなせろ」からの鬼展開が楽しかったし。

グレタ・ガーウィグ&マーゴット・ロビーとバービーってのが正反対だと思っていたのでどんなエクストリームな展開と結末にするのか、きっと僕には考えつかないレベルのことをしてくるのだろうと。

上映時間6時間かと思ったら114分。
そりゃ濃密ですよ。
濃厚&鬼展開。
なのにケンの歌の長いこと長いこと(←いいですよねぇわざとうんざりする程長いんだもん…)。。

物凄くわかりやすい。
終盤なんか説明台詞オンリーですからね。そこがマイナスなくらい。でもここまでわかりやすく噛み砕いて話さなきゃいけないって判断したんでしょうね。

成功かと。現時点で10億ドルのヒット。
そして拒否反応もわんさか!それは〝伝わった〟からこそ。

正直今までの映画たちだってこれくらいのこと言ってきたんですよ。でも『バービー』の直球さ&濃度は異常事態!

痛快!痛&快!
今の所〝痛〟が勝ってるけど。


◼️バービーだったマーゴット・ロビー

古い話ですけど、「アリーmyラブ」という海外ドラマがありまして、、、
その中にジョージアという女性キャラがおりました。
彼女はブロンドで高身長で超絶美女で「バービー」とあだ名をつけられていました。
それは誇らしい感じではなく、悪口的なニュアンスで。

ハリウッド映画には”ブロンド役"という役柄があって、それは主役の男性に添えられるセクシー美女のこと。

高身長の美形女優はほぼそのセクシーなブロンド役を登竜門にするしかなく、
その後なんとかして演技派に転向しないとキャリアがうまくいかない。
(アカデミー賞とるかインディーズ出まくるか)

マーゴット・ロビーもブレイク作『 ウルフ・オブ・ウォールストリート』ではブロンド役だった。
しかし女優としてのキャリアを積みながらも、さっさと映画プロデューサーとして自分が主役の(アカデミー賞取る気満々の)『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を製作。
そして演技大絶賛。

そんで演技賞の常連になりつつも、
自分が出ない『プロミシング・ヤング・ウーマン』の製作に入ったり、
ハーレイ・クイン役が当たって単独映画の話が来ても
「スピンオフ映画はハーレイ・クインの単独主演作ではなく、クイン以外の女性キャラクターも複数登場させて欲しい」
っつって実はBIRDS PF PREYというチームの映画で女性キャラの活躍の場も増やした。

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』もめっちゃ面白かったし。

マーゴット・ロビー大好き。
ノーベル賞あげてほしい。

でそのマーゴットが『バービー』でバービーやるっていう。
ブロンド美女役をやるっていう。
そりゃ一筋縄でいく映画になるわけないのさ。


◼️「ポリコレ映画め!」と言われているが

まず出だしでギョッとしませんでしたか?
幼女たちが赤ちゃん人形を破壊していくシーンありましたよ。ショックを受ける人多そう(赤ちゃんとは遠い存在の僕でさえちょっと引いた)なシーン。
ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。

ケンやマテル社を中心とした「男性の描き方」もかなり一面的で「そりゃ反感買うわ」っていうシーンが多いし長いしホントに長かった。。
ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。

アジア系、イスラム系の女優をそんなに見かけなかった。ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。

冒頭の赤ちゃん人形破壊のシーンについては「この映画はブラックコメディですよ。
こういう感じで行きますよ。ていうか所詮人形ですよ」というメッセージだと思いました。

男性の描き方については「今まで散々女性を一面的に描いてきて時代が変わって女性を多面的に描き始めたらポリコレだ!ポリコレだ!って騒いで、男性が一面的に描かれると怒り出すってナニソレ?」ってことかと。

アジア系、イスラム系女優少なかったことについては、確かに男性キャストより少なめだったと思う。
同時に「はいはいアジア人も入れときましたよ…」的な表面的なポリコレ配慮にもウンザリしているし、

つまりはポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでしたよ!!


◼️バービーを描くことは人間を描くこと

「バービーを描くことは人間を描くことになるだろう」とグレダ監督は制作前から思っていたとのこと。

バービーというものを必要とし愛し嫌悪もしてきた人間を描いたのですね。

この映画の冒頭で「女児には赤ちゃん人形しか与えられなかった」と言っていたように、女性と生まれたからには一本道に「お母さん」に向かうものだと刷り込まれていた。

のが、17歳のバービー人形の登場で「自由で楽しい女性としての人生があるんだ」ときっと女児たちはテンションぶち上げだったことでしょう。

とはいえバービー人形誕生の前に「ウーマンリブ」が起きたのだろうと思ったら
バービー誕生は1958年でウーマンリブは1960年代後半からってことなのでウーマンリブよりも10年くらい前にバービーは誕生してたんですね。


◼️1955年 西ドイツ ビルド・リリ

さらにそれより早く、1955年の西ドイツのグライナー & ハウサー社がファッションドールとしてのビルド・リリを発売。

ビルドというタブロイド誌で連載されていた漫画『リリ』の主役リリを人形化した商品。
ファッショナブルで見た目はバービー人形と見分けがつかないし、すでに特許を3つ取ったくらいに高性能。

価格は2万円くらいかと(平均月給が200~400マルクの時代に12マルク)。
最初はジョークとして男性向けに販売されていたのが、次第に子供達にも人気になったと。

その頃、
自分の娘バーバラが自分よりも年上の女性になりきって紙人形で遊んでいる姿を見たりして
「それまでは10代や大人になるという基本的な考え方を理解できる女の子向けの人形が欠けていた
」としてバービーの生みの親ルース・ハンドラーはビルド・リリを買ってきた。
ビルド・リリはルースが作ろうとしていた人形と同じコンセプトだった、と。
で夫との会社"Mattel"で製造販売&大ヒット。


◼️今までの映画でも同じメッセージは繰り返し語られてきた

男性社会の歪さとか女性活躍促進会議に女性がいないとか女性にはあらゆるものが押し付けられているとかマチズモうざいとか「あなたであればそれでいい」とか。

ラストでいちいち男女が恋に落ちなくてもいい(落ちてもいい)とか女性差別の裏には男性差別もあるとか

上映時間144分の中でいろんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜メッセージを言ってて、受け取るのも大変だし、
新しいメッセージがあったのかもしれないけど特に新しいのはなかったようにも思うし。。

ただ、
これだけの量と密度と勢いでこれらのメッセージをぶつけてきた映画は初めてなんだと思います。
爆誕です。

「届いた」からこその10億ドルの大ヒットだし、
「届いた」からこその反感の嵐もものすごいことになってる。

◼️わかりやすい。終盤はほとんど説明セリフ

画面が楽しい映画ですけど、説明セリフが多い。
終盤の大事なメッセージとかは全部セリフ。
ある老女との会話もず〜っと説明セリフ。

↑こんなワケないのよ。
グレタ&マーゴットの映画で。
もっとサラッと映画的な表現で伝えることができるはずなんよ。

でもそうじゃなくて、つらつらつらつらつらべらべらべらべら喋るわけ、特に終盤。

なんでか。
そうしないと伝わんないと思ったんでしょうよ。
アメリカ・フェレーラさんがほぼカメラ目線みたいな感じであれだけ捲し立てないとダメだって思ったんでしょうね。

で、やっと伝わった。伝わった証拠としての反感の嵐。

「ちゃんとした映画を観たい」と僕は思いましたけど、
そういう映画を観たいならそういう映画を見ればいいだけのことです。
そんなことよりももっと大事な大事な映画です『バービー』は。

この映画を観てあらゆる年代の女性たちがどう感じたのか、
パワーをもらったのかを僕が語る資格はありません。

きっと励まされた気持ちになるのではと想像はしますし、僕はとてもうらやましかったです。

僕たちについてもド全力で励ましてくれる傑作&大ヒット映画があったらいいなと。


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ラストネタバレはコメント欄に。