朝田

アイリッシュマンの朝田のレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
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一人の裏社会に生きた男の半生を回想形式で描く、という「グッドフェローズ」的な作品ではある。が、過去作のような大量のポップミュージックとバイオレンスを交えたハイテンションな編集は鳴りを潜め、静的な造りになっている。なのでぶっちゃけ前半は切れ味が悪い「グッドフェローズ」及び「カジノ」でしかなく退屈。だが、「グッドフェローズ」で描かれた内容のその先まで描き切る事で本作は特別な価値を持ちだす。終盤スコセッシ自身の極めてパーソナルな、「老い」に生じる「贖罪」にまつわる心情がデニーロ演じるフランクの想いとして描かれるのだ。それによって前半部のどこか切れ味を失った語りが、語り手自身の「老い」、「後悔」とシンクロし意味を持ち始める。この全体に漂うダウナーさと、死の香りは「アウトレイジ最終章」を思い出させた。そういう意味でまさしく今のスコセッシにしか造り得なかった作品と言える。また抑制的とは言え要所要所でスローモーションが効果的に使われるなど画面に緩急がもたらされる切れ味は流石の一言。特にフランクのモノローグに埋め尽くされた前半から、後半ほとんどセリフも音楽もないカットが連なっていく構成は「グッドフェローズ」的とは言えやはり非常に効果的で息を飲んだ
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