丹叉

ノクターナル・アニマルズの丹叉のレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.8
最近は映画を観る時間も少なく、あったとて長時間の拘束に怠さを感じて中々観る気が起きなかった。どうせ観るに至らないのに、だらだらとClipしていた作品達を眺めていると、トム・フォードという聞き馴染みのある人物が監督を務める作品を見つけた。いやいや、まさか、あのトム・フォードではあるまいと思いながらGoogleで検索をかけると、正にあの名の知れたハイブランドのデザイナーと同一人物であった。世界的に有名なブランドを手掛ける人間が撮る映画なんて、もう芸術性が全面に出た、最高に美しい作品に違いない、と大いに興奮し、吸い込まれるように本作の鑑賞を開始し、あっという間にエンドロールを迎えた。最高傑作だった。読みは当たっていた。映画という美的センスが直に作用する芸術において、トム・フォードは余りにも相性が良すぎた。映画を専門的に学んだわけでもない人間が、監督2作目にして、完璧なサスペンスを創り上げてしまった。

恐ろしいほどに、隅々まで完成されていた。
絵画や建築物はもちろん、ファッションやメイク、そして度々挿入される都市や風景の俯瞰ショット、更に根底で支える構図やカメラワークまで、存命に自身の美的感覚を反映させている。弦楽器を巧みに操る音楽も印象的だ。たしかに、ここまでに羅列したポイントにおいては、芸術主義的なベクトルとは違うにしろ、リンチ、フィンチャーやヴィルヌーブなど腕の利く監督の作品であれば、同等の質の高さがあるのをいくつか思い浮かぶ。しかし、これまでのサスペンスやミステリーでは見たことのない、この作品にしかない、トム・フォードの才能が爆裂した、圧倒的に優れている箇所がある。構成だ。

本作は実質的に2つのストーリーが、同時進行的に進んでいく。主軸のAストーリーに加えて、主軸の登場人物Xの元に届いた、Yが執筆した、なぜ書いたのか、送られてきたのかも分からない、ある小説“ノクタール・アニマルズ“がBストーリーとなり、それらが複雑に絡み合いながら物語が進行していく。面白いのが、Bストーリーは紙面の小説でありながらも、映像として視覚的に映し出されるのだが、それはあくまでもXが小説を読みながら、自身の経験や憶測を基に頭に浮かべている脳内イメージなのであり、必ずしも小説が持つ本来の答えではないかもしれず、そのことが我々を混乱させ、本作の最大の問いかけである『Yが“ノクターナル・アニマルズ“を執筆し、Xに読ませた目的』に複数の解釈が生まれることである。右目的の答えは明示されないため、我々は鑑賞後に熟考を強いられる。自分で限界まで考えた後に、考察サイトを読み漁って欲しい。それは人によっては答え合わせであり、または私含む並の人間の鑑賞力では到底辿り着けないような、驚愕の解釈が待っている。
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