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ノクターナル・アニマルズのUKIのネタバレレビュー・内容・結末

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

いやー面白かった。

何不自由なく生活をしているアートギャラリーのオーナー、スーザン。
ある日、元夫から完成間近の小説が届く。
“スーザンに捧ぐ”というこの小説の名は「ノクターナルアニマルズ(夜の獣たち)」
彼女は恐る恐るこの物語を読み進めていくのだった。


結論から言って、この物語の結末は本当に「復讐」でいいの?という感想。

暴力的で破滅的なこの小説は、
セレブなスーザンにとって現実的ではないはず。
しかし夫や娘に連絡したりする場面から、
なぜか読み進める度に彼女はどこか実感のようなものを感じているのが観て取れます。
小説の映像はそのままスーザンの想像であり、小説の主人公であるトニーをエドワードと重ねて感情移入しているんですね。
理不尽な暴力によって妻と娘を失い、途方も無い絶望を味わったトニー。
スーザンからするとトニーは、愛する人が去り、中絶によって娘をも失って嘆くかつてのエドワードそのものだったのでしょう。
そして「お前は弱い、何もできない」と言われながらもレイを殺したトニーの様に、それを乗り越えて、こんなに力強い作品を生み出せるように変わった自分を見てほしいのだと思ったのでしょう。
自分自身の事を書きがちだったエドワードですから無理もありません。
スーザンは生活に不自由は無いが何も感情がわかない仕事、不貞を働く夫に嫌気がさし、素晴らしい作品を完成させたエドワードとの甘い時間を思い描いたのでしょう。
しかし会う約束をして高級レストランで待つスーザンの元に、エドワードはとうとう現れることはありませんでした。
彼女の目に深い悲しみが浮かびます。
端的に見れば、期待をさせて裏切るという、自分に対して酷い仕打ちをしたスーザンへの復讐の様に見えます。

しかしそうなのでしょうか。
スーザンに感情移入しすぎじゃないでしょうか。
主人公はエドワード。
スーザンに送った小説の名は「ノクターナルアニマルズ」で、
この物語自体が“スーザンに捧げる”もの。
登場人物は全てスーザン自身。
トニーを襲うレイたちは、本来の彼女を抑え込んでいるもの。
警官はそんな自分を疎ましく思う気持ち。
そして善良な人間であるトニー自身は本来の彼女。
エドワードは彼女にこの小説を通して、本当の自分を取り戻して欲しかったのではないかと。
封印する彼女の心の闇を打ち壊し、本来の彼女となって自分と会ってほしいという。
しかし、スーザンは素晴らしい作品だ、高級レストランで会いましょうと言った。
結局彼女はこの小説の意図に気付かず、
また、高級な店を選んだ。
エドワードが望んだ彼女はもういないのだと、彼女もまた彼女の母親と同じになってしまったとわかり、会う事をしなかった。
私にはその目に浮かんだ悲しみがそれを表している様に思えます。

復讐ではなく、スーザンを変えたかったという歪んだエドワードの愛情の物語じゃないかと感じました。

まぁこんな解釈もあるんだくらいの感じで。
観る人によって受け取り方や感想が著しく変わる作品ですね。
こういうの、好きです。

以下雑感。
・のっけから強烈な映像に驚く。
・化粧が濃い目のエイミー・アダムスも良いです。
・浮気野郎の夫がアーミー・ハマーって気付かなかった。
・アーロン・テイラー=ジョンソンの怪演はすごい良い。
・しかし開放的なトイレシーンに笑う。
・ジェイク・ギレンホールは本当に良い役者さんですね。絶望感が物凄く刺さって涙が出そうだった。
・エドワードはやっぱりロマンチスト。理想と現実の剥離に絶望するタイプ。
・「ネオンデーモン」、「インヒアレント ヴァイス」ときてまたジェナ・マローンにお目にかかるとは。癖のある役がハマりますね。
・トム・フォードに少し興味が。「シングルマン」も観てみたい。
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