松瀬研祐

あの頃エッフェル塔の下での松瀬研祐のレビュー・感想・評価

あの頃エッフェル塔の下で(2015年製作の映画)
3.6
普段、あまり前情報をいれずに映画を観るので、これが20年ほど前の作品『そして僕は恋をする』という作品と少し関係があることは後から気づいた。

そもそも最初は何かサスペンス映画のようにも思えて、そういう作品かと思ったら、途中から急激にラブストーリーに方向転換されたので、あ、そうなのかと思いつつ。

手紙のやりとりを交わす10代の少年少女のラブストーリー。家族との出来事もあるが。スマートフォンがある今となっては毎日のように繰り返される手紙のやりとりというが考えられないが、そのもどかしさ、手間、制約がかえって何かしら、二人の関係性を強くするきっかけになっているようにも思う。

気恥ずかしくなるような言葉は、やがて映画の中で、彼らの口から発せられる。彼らは、迷いなく、カメラに向かってまっすぐにその言葉を口にする。そのまっすぐさは10代そのもののような気がする。無謀だろうが、結局終わってしまう関係だったとしても、それは振り返って後から見れば、結果的にそうなってしまったというだけで、手紙を書いていた「いま、ここ」では、彼らの言葉はまぎれもなく真実だった、はず。

劇中で、ベルリンの壁が崩壊する映像をテレビで観ながら、主人公は涙をながす。「喜ぶべきことじゃない?」という問いに対して、「僕の少年時代が終わった」と語るのは、彼が10代の時にソビエトで過ごした一時代の歴史の証明みたいなものが、文字通り、無くなったからだろう。

映画の終わり、パリの街を歩く年を重ねた主人公を演じるマチュー・アマルリックに向かってどこからともなく風が吹き、無数の手紙と思われるものが風に舞い散り、主人公を通り過ぎていく。その1枚を拾い、微笑む姿は、同じくデプレシャンの作品『クリスマス・ストーリー』のクライマックス、降り始めた雪を見上げる姿にも重なり、あらゆる諸々の良くも悪くもすべての事柄を、その時その瞬間はすべて受け入れるような柔らかい表情だった。
松瀬研祐

松瀬研祐