こーた

裁きのこーたのレビュー・感想・評価

裁き(2014年製作の映画)
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壇上で歌う老人の顔に張りついているのは、怒りだ。
猛々しい歌声に乗せて、内側からふつふつと湧き上がってくるような、静謐な怒り。
社会が急速に発展し、いたるところに生じた隙間を、法律は埋めることができていない。
弁護士も検事も判事も、法廷のなかではあくせくと働き、かれらの職務と、誠実に向き合っている。
それなのに議論はいっこうに噛み合わず、主題はどんどんずれていく。
富裕層がリゾート地で世界経済を論じるいっぽうで、自分の正確な年齢さえ知らない人々がいて、その家族が無知によりむざむざと死んでいく。
その死が、権力の都合で歪められ、あるいは利用される。
権力が、それを行使するものの裁量に委ねられて、社会に綻びを生み出している。
その綻びを繕うはずの法律が、かえってもつれを大きくしている。
老人は、そのことに怒っている。
音楽、文学、それに映画。
わたしたちはそれを自由に歌う権利がある。
わたしたちはそれを自由に読む権利がある。
わたしたちはそれを自由に観る権利がある。
これは遠い異国の出来事ではない。
その怒りが隙間を埋める。
その裁きが権力に抗う。
もっと怒りを。
もっと裁きを。