JunkoTsuneda

ブルーに生まれついてのJunkoTsunedaのレビュー・感想・評価

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)
5.0
私はハードバップからジャズを聴きはじめた。だから歌もうたう甘くロマンチックなチェット・ベイカーは、どうも軟派に感じられていた。ウェスト・コーストは聴きやすく甘やかで軽やかなのだ。チェットは、枯れてからデンマークの名門スティープルチェイスで吹いた盤のほうが、最盛期のシングスよりも断然好みなのであった。

『ブルーに生まれついて』は、浮き沈みの激しいチェットのどん底からの物語だ。一番輝いていた時代は描かれない。映画のはじまりは、どん底だった過去を自ら演じる映画の撮影からだ。つまり、物語中の物語(入れ子構造)であり、チェットの20代を40代くらいのチェットが監督の演出を受けて演じており、それはイーサン・ホークだ。説明しづらい。別れた妻を演じるのはなかなか女優としては芽が出ないジェーン。2人は恋をする。チェットが実家にジェーンを連れて行くと母親が「別れた奥さんに似てる」と言うが、そりゃそうなのだ。ジェーンには残酷かもしれないけど、出会いがそれだったから。
ジェーンはマイルスの奥さんにも似てると思った。いつか王子様がのジャケットを思い出す。

イーサン・ホークはイーサン・ホークにしか見えない(チェットが小顔すぎる)が、退廃的ながらひとり練習を重ねる哀愁の演技が深い。上手い。すばらしい。

マイルスとディジー・ガレスピーがそっくり!ディジーのほっぺのそっくりさといったら!

終わった落ちぶれた、と言われるチェット。人気トランペッターだったというプライドがある。麻薬の売人に殴られてあごも歯もボロボロで、でも痛みに耐え血を吐きながら練習する。

レーベルオーナーのディックと、チェットの映画を撮っていた監督が「技術の衰えが味になってる」とチェットの演奏を褒めるが、私もチェットの甘やかさ華やかさより、枯れた味わいのほうが好みである。

ラストシーンはバッドエンド。こう言ってしまっては悲しいけれどチェット・ベイカーらしい。
JunkoTsuneda

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