きぬきぬ

ミモザの島に消えた母のきぬきぬのレビュー・感想・評価

ミモザの島に消えた母(2015年製作の映画)
3.4
原作はタチアナ・ド・ロネ。「サラの鍵」もこの作家原作で、個人的には好きではないけど、家族や人間関係に所々鋭い視点があると思う。この映画も好きではないけど映画館できっちり観て良かった。考え深い部分はたくさんある。

10歳のときに溺死した母親が、‘何故?溺死することになったのか’をトラウマ的に引きずり続ける男はもう40歳。愛する母の死を時の経過で忘れることもなく、二人の娘の父親となり、かえって幼い子どもを残して逝った母の真相に執着したと思われる。父親も祖母も話そうとしない母親の死を追うサスペンス風にもなっているけれど、10歳の少年のまま彼は母親が自分たち兄妹を愛していてくれていたのか知りたかっただけなのだと思う。それが隠されることでなおさら不審感が湧いてしまう。
主人公はそんな靄を取り払う為、作り物に思える平穏さもぶち壊して行く。彼の幸いは、理解してくれる女性アンジェル(オドレィ・ダナがとても素敵)と出逢うことで、父親の二の舞を踏まないよう先へ進むことが出来たこと。別れた妻と暮らす娘も彼女の秘密を打ち明け、父娘に深い信頼の絆が生まれる。

家族や友人誰にでも秘密はある。知らない方が平穏でいられる秘密もあるし、言えない秘密もある。でもその隠し事は時間が経つ程、関わる人々に重くのしかかっていく。本当のことを教えてくれない人間はたとえ家族であっても、家族への愛情があっても心から信頼することが出来ない。
妹が怒りを感じ許せないのは、真相そのものよりも、それを隠されていたことと、知ろうとしなかった自分に、なのだろうと思う。
この作品、あまり語るとネタバレとなるサスペンス要素があるし、おかげで、あるジャンルに属するけどそれも書けない。でも今を生きる為には真実を見据えなければいけないし、謝って欲しい人には謝って欲しかったなあというもやもや残る。父親にしては長年秘密にしていたことにさえ、罪の意識に囚われるのだろうな。やるせないし、あまりに厳しく辛い話だ。

幼かった兄妹と、彼女を愛した人に残る、母親の面影がとても美しい。


主役のローラン・ラフィットはコメディ・フランセーズの役者だし、メラニー・ロランもやっぱり良いし、ビュル・オジェ出てるし役者皆良い!
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