鹿江光

ルームの鹿江光のレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.2
≪85点≫:“世界”と生きていく。
かくも恐ろしい監禁事件。よくあるサスペンス映画であれば、この状況から脱出できるかどうか…その緊張の一瞬にすべてが集約していくだろう。しかし本作は、監禁という「閉鎖的な世界」が終わるところから物語が始まる。サスペンスの絶頂のその先を描いている。
善くも悪くも、子は親を離れ、新しい世界で成長していくものだ。それは苦楽を共にしてきた親にとっても幸せなことであり、同時に寂しいことでもある。「生まれた世界」と「生きる世界」の狭間で、親の心配とは裏腹に、子どもはいとも容易く大人になっていく。
なかなかに複雑な話だ。涙を流すような感動もあるが、それは心から祝福するような涙でもないし、痛みを共有したが故の涙でもない。
「事件」というものは、当事者はもちろん、その家族、友人、関わった人すべての人生を一変させる。そのことが隠されることなく描かれていたのも好印象だった。住む世界を変えることを余儀なくされたのは、親子だけではないことがよく理解できる。
やるせない運命の中を進んでいくしかない親子。一体なにが幸福であるのかは皆目見当も付かない。ただ、子宮という生まれた世界を飛び出し、本物で溢れた生きる世界を歩んでいくと決めた彼女たちの姿に、安寧を願わずにはいられない。
そして時には、生まれた「部屋」のことを思い出す。自分の運命の悲惨さを嘆くためではなく、今まさに生きている世界を知るために、この世界で生きている理由を忘れないために、心にずっと「部屋」を持ち続けるのだ。そうして人は、もういちど生まれる。
鹿江光

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