半兵衛

絶頂姉妹 堕ちるの半兵衛のレビュー・感想・評価

絶頂姉妹 堕ちる(1982年製作の映画)
3.6
同じ脚本家の『マル秘色情めす市場』と同じく主人公が家族や自分の中に潜む娼婦性と向き合う話なのに、『マル秘~』は生々しい世界なのにどこか寓話性があったので距離感を保って見ていられた。しかしこの作品は黒沢直輔監督のドライな語り口と都会の禍々しくもどこか癒される風景が相まって、生々しい痛みが画面からにじみ出る残酷な話となって観客の心をグリグリとえぐってくる。主人公と姉、そして毒親ともいえる母親の関係性もリアルなものになっていてより主人公のどうしようもない苦悩が重くのし掛かる。

行き場のない泥道に入った主人公がその世界から仮面を被って抜け出そうとする姉に対してとった行動からくる最悪なラストはひたすら虚しいが、でもその主人公の嫉妬と積もり積もった過去の怒りから来る感情にどこか共感できるのも事実。同時にこういう底無し沼のような悪意の感情を持っている自分が嫌になるけどね。

中盤、姉の結婚を祝って酔っ払った三人が騒ぐシーンはどこかコミカルだが、ラストを見るとあのときが幸福な時間だったのだなと思いだし虚しさが増してくる。

主演を演じる倉吉朝子の、不幸そうな顔立ちが主人公のキャラと合っていて映画に深みをもたらす。あといい年齢でありながら淫乱な性質をむき出しにして生きる母親絵沢萠子や、裏社会に生きる人間の凄みを飄々とした演技から不気味に醸し出す売春斡旋業の小林稔侍といったベテランの演技も見事。
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