このレビューはネタバレを含みます
国境というシチュエーションで、メキシコからの移民は自由や安全、家族との愛を求めて渡ってくるのだが、それに対峙するアメリカ人のハンターの背景も匂わされているのが興味深い。
彼には恐らく、家族がいない。友達もいない。仕事もない。持っているのは車とライフル銃と狩りの相棒となる犬だけだ。「昔はここが大好きだった。今は憎くてたまらない」という独白は、誰にも向けようのない怒りや絶望の表れだ。それを「不法移民」という社会的弱者にぶつけている。彼もまた、アメリカという国に置き去りにされている。国に頼まれもしないのに、自警団気取りで殺戮を行い、何とかアイデンティティーを保っている。自分は、必要とあらば国のために殺人も厭わない「有用な」人間なのだと、誰もいない荒野に叫んでいるようだ。
ライフル銃のレンズから標的を見つめるようすから、彼はもしかして、単に誰かと話したいだけだったのではないかとさえ思えてくる。彼に残された、最後のコミュニケーションの方法が狙撃だとしたら、こんなに哀しいことはない。
車も犬もライフル銃も奪われて、何もかもなくなってようやく対話できた相手とは、言葉が通じず、見捨てられる。拒絶と寂しさと孤独から、最後まで救われることのない彼の姿に、ようやくアメリカにたどり着いた二人のメキシコ人の未来が暗示されているようで、現実の厳しさを否応なしに感じさせられる。
今、観るべき作品であることは間違いない。