丹叉

メッセージの丹叉のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.9
メッセージ、
それは観る者に新たな時間観念を授ける映画

この映画は我々の信じて疑わない常識的な時間観念を破壊する。我々の線形的な時間観念、つまり時間を過去から未来への方向で一直線的に捉える考え方を覆す。「起こった事」「起きている事」「起こる事」を順序立てて線形的に捉えるのではなく、それらを”同時“に捉える、同時認識的な時間観念を我々は見せつけられる。時間を時間的に考えないのだ。そもそも時間なんてない。人間が便宜上作り出した後発的な概念。実際に存在する訳ではないのではないか。こうして「時間」についての解釈が鑑賞後に止まらなくなる。なんて知的で論理的な映画なんだ。観る者の考え方にまで影響を与える凄まじい力を持つ作品。この様な難解な題材を、荘厳で繊細で美的で芸術的でいて現実感のあるビジュアルコンセプト、それ中心とする世界観を天才的なセンスで表現するヨハンヨハンソンのアコースティックとエレクトロを融合した現代的音楽、常に完璧で美しい構図を再現し又リアリティあるタッチで観る者を惹き込む撮影、そして同時認識的な時間観念をルイーズと共に体験しているかの様な巧みな映画の構成により、圧倒的完成度で大傑作に仕上げたヴィルヌーブ監督。同じ時代を生きれて、この映画に出会えて本当に嬉しい。こんなに素晴らしい体験をありがとう。

再鑑賞
やはり自分は単に「SF」が好きなのではなく、SF的ギミックに対し学問的科学的に、論理的に対応する「SF」が好きなんだなって思った。インターステラー、TENET、コンタクトとかね。今作では異星文明との接触を言語学的にアプローチしている。地道に異星言語を研究分析し、徐々にコミュニケーションが可能に。そしてルイーズは相手方の言語を理解していく過程で、同時認識的時間観念を習得してしまう。いきなり話がぶっ飛んだな、やはり所詮SFだなとか思った人もいるかも知れない。そうじゃない。他のSFでは話が飛躍しそうなこういった部分をこの映画ではしっかりと論理的にアプローチしている。つまりルイーズの同時認識的時間観念の習得を、言語学、とりわけ劇中でも出てきた「サピア=ウォーフの仮説」を根拠にしているのだ。それは端的に言えばある言語の理解が人の思考や観念に影響するという説である。つまりルイーズのヘプタポッド語(非線形言語=時制の不在)の理解がシナプスに影響し、ヘプタポッドの時間観念(非線形的時間概念=過去現在未来の同時性=時制の不在)が降りてきたのである。

私はこの映画を鑑賞し理解する過程で新たな時間観念を習得してしまいました。ある映画の鑑賞は観る者の思考や観念に影響を与える「ドゥニ=ヴィルヌーブ仮説」を提唱します。

最初と最後のシーンに流れるマックスリヒターの「On the nature of Daylight」と言う曲は毎度感情揺さぶってくる...なんだよこの美しくエモーショナルな曲は...ヴァイオリンが引かれ始めた瞬間、切なさ寂しさそしてどこか自然の神秘的さが身体全体に染み渡る...完全にメッセージの世界観とルイーズの心情を捉えている...この曲をチョイスしたのはヴィルヌーブかもしくはヨハンソンか...センスがあり過ぎて震えるよ
丹叉

丹叉