一昨年、中国のSF小説『三体』三部作(劉慈欣)を読んだ。
『黒暗森林』に<猜疑連鎖>という仮説が出てくる。それにより導かれる定理は、
「宇宙で他者に出会ったら生存のための最善策は瞬時に消滅させることである。
相手が善意であっても悪意であっても判断せず瞬時に」
というものだ。これはロジックとして非常に腑に落ちるものだった。
同様に理系小説と言える、寡作なテッド・チャンの2冊の短編集はいずれも邦訳出版のタイミングで読んでいて、なかでも本作の原作にあたる「あなたの人生の物語」は特に好きな短編だ。
映画化されると知ったとき、映像化は難しいのでは、というのと、物語が悲しいから、という理由でスルーしていたけど、この度U-NEXTで鑑賞。
おそらく脚本のまとめられ方に違和感があり、原作とはまた違った作品と感じた。
そして映画としては、映像の質感や音は良い雰囲気であったものの、やはり少し退屈な部類に入る。
何より時代性として、原作は四半世紀前に書かれたので(チャンは冴えてる作家だけど)、それ自体が現代にそぐわない楽観性に満ちていると思う。
ノンゼロサムゲームの提唱、人類を友好に導いて去っていくエイリアン。
そういったモチーフがもはや説得力のない現代になってしまった。