katsu

メッセージのkatsuのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.3
『答えは自分の中にある』

この作品…途轍もなく美しい!

先日発表された第89回アカデミー賞より、本作は8部門ノミネートから音響編集賞を受賞し、全世界に認められたSFドラマである。

2014年公開の超大作「インターステラー」同様、科学考証の的確さと人間ドラマに主眼を置いた秀作だ!

ただし強いて残念な点を記すとすると万人受けしないことだ。
酷評を記した覚えのある昨年公開された「インデペンデンスデイ:リサージェンス」の様なブロックバスター的盛り上がりのあるストーリーラインでく、中盤の醍醐味であるエイリアンの言葉の翻訳シーンに興味を誘われない人にはとても退屈な映画になるだろう。
「インターステラー」では映像的な見応えがあり観る側も宇宙を旅している感覚にさせる視覚効果を用いていたが、本作はその点控え目となっている。

◆本作の《ネタバレあり》あらすじはこうだ…

世界各地に突如として出現した謎の物体「シェル」。
本作の主人公、言語学者のルイーズは大学で授業を行っている時にその出現を知ることになります。

そんなルイーズが研究室でニュースを見ているところに軍の関係者が現れ、彼女を「シェル」の対策チームに翻訳者として誘います。

悩んだ末、ルイーズはこれに応じます。
軍の関係者とともにシェルの出現したモンタナへと向かう途中で、同じく対策チームに招集された物理学者のイアンと出会うのでした。

ルイーズとイアンが「シェル」の中に入ると、そこは重力がねじ曲がった空間で「シェル」は人知を超えたものだと2人は知ることになります。

その空間を進んでいくと現れたのがイカのような姿をしたエイリアン2体。
後にアボットとコステロと名付けられるこの2体とコミュニケーションを図るルイーズですが、エイリアンの言葉が分からないため会話にならず初回の接触は打ち切りとなります。

次の接触の時にアボットとコステロが字(エイリアンの言葉)を書けることが分かると、それを翻訳するためにルイーズとイアンは何度もエイリアンと接触して糸口を探っていくのでした。

エイリアンの書く文字はとても複雑で、一意には訳すことができません。
しかし、ルイーズは亡くした娘との会話を思い出す中で、翻訳の糸口となるきっかけを見つけます。
その結果、ある程度の意味であれば理解しコミュニケーションが取れるように。

こうして翻訳が進んだところで、ルイーズはエイリアンに地球に来た目的を尋ねます。
その答えは「Use weapon」…
武器を使う、すなわち攻撃するという意図に取れるこの言葉にルイーズは困惑します。

しかし、軍関係者は抗戦する必要があるとして「シェル」に攻撃する構えを見せます。
アメリカ同様に世界各国でも翻訳が進んでいき、中国は武力攻撃を宣言する事態になりました。

この状況にもかかわらず、ルイーズとイアンは「weapon」は例えば「tool」のように武器とは異なる意味で用いられたと考え、再度アボットとコステロに接触します。

ルイーズがコステロに彼らの字を書く方法を教えてもらう最中、軍人が仕掛けた爆弾が爆発。
アボットとコステロがルイーズとイアンを爆発の直前に、「シェル」の外へと吹き飛ばしたことで、2人は事なきを得ます。

ベースキャンプで目が覚めたルイーズとイアンは、爆発直前にアボットとコステロが記したメッセージの解読を試ることに。
その結果、そのメッセージは時間に関する何かしらの意味があることが分かります。

軍による攻撃が始まろうとする中で、ルイーズは再び「シェル」の中に入りコステロと再会。
アボットは先ほどの爆発で死にそうであると伝えられたルイーズは、亡くした自分の娘のことを思い出します。

コステロがルイーズに伝えたのは衝撃の事実でした。
ルイーズは未来を見ることができる、と。
この映画の中で何度も登場する娘のフラッシュバックシーンは全て、未来の出来事だったのです。

ルイーズはベースキャンプに戻ると、将来エイリアンが去った後の記念パーティーで中国の軍幹部から「シェル」を破壊するのを止めたことを感謝される場面が頭に浮かんできます。

未来の出来事のビジョンを元に、ベースキャンプから中国の軍幹部に連絡を試み、その未来のパーティーで伝えられたことを思い出しながら、現在の軍幹部にメッセージを伝えるのでした。

それを聞いた中国は攻撃を中止。
中国の「シェル」は消え、続いて世界各地の「シェル」も空に消えていくのでした。

そしてルイーズの未来のイメージの中で、娘の父親はイアンであることが明らかになり終幕。

◆キャスト&監督&スタッフ

テッドチャンの短編小説「あなたの人生の物語」を基にエリックハイセラーが脚本を執筆。

ルイーズ演じるエイミーアダムスの演技が素晴らしく、なぜ第89回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされなかったのか今でも疑問です。
各所で見せる彼女の立ち振舞に悲しみと切なさが共存し、思わず唸ってしまう迫真の演技だ!

イアン演じるジェレミーレナーには特に感想がありません。
どうしても彼の姿がホークアイに変換されてしまう自分が原因です。

「ローグワン」の出演が記憶に新しいオスカー俳優のフォレストウィテカーも好演だった。

監督のドゥニヴィルヌーヴは過去に『ボーダーライン』『プリズナーズ』『複製された男』といった快作を世に放った鬼才だ!
さらに現在製作中の『ブレードランナー2049』も監督するため引き続き活躍が期待されることでしょう。

音楽には、同監督とタッグが多いアイスランド出身のヨハンヨハンソン!
「博士と彼女のセオリー」で第72回ゴールデングローブ作曲賞を受賞するなど今勢いに乗る若手作曲家だ。
ゆったりとした旋律から、独特な変拍子をスコアに取り入れるなど彼の挑戦は他の作曲家より秀でている。
専用の楽団による演奏によりエイリアンのコンタクトの際に挿入される張り詰めた緊張感や、ルイーズのドラマ性を引き出す効果など彼の音楽による本作への貢献は大きいだろう。
「ブレードランナー2049」でもその手腕は試される!

◆私が考えるコミュニケーションの意義

エイリアンとコンタクトする時に、言語学者を連れてきてエイリアンの言語解読を試みるという現実的な設定にリアリティを感じた。
アニメだと都合よく地球の言語を話せたり、やたらと便利な翻訳機があったりしますが、本作はそんなことありません。

ホワイトボードを持つ、実際に手振り身振りで説明するのを見ると、かつて未開の地の言語を翻訳する時もきっとこのようにトライアンドエラーを繰り返しながら、先人が努力して言語の壁を乗り越えてきたのだと思いを馳せました。

そして同時に、そうした努力が実を結ばず戦いに繋がった歴史もきっと多くあるのだろうと…

思い出したのは『伝説巨神イデオン』。
イデオンでは冒頭で、地球人とバッフクランという異星人が接触した時に、降参しようと地球人が白旗を上げるんですよね。
ですが、その白旗はバッフクランにとっては「殲滅する」と宣戦布告を意味するもので、そのミスコミュニケーションから悲惨な戦いが始まってしまうんです。

こういったコミュニケーションの違い、手違いによって悲劇が始まることは、エイリアンだけではなく当然人間同士、国や人種が違えば当然起きうることである。

まさに今、アメリカ合衆国でもトランプの大統領当選でヘイトクライムが巻き起こっているのは、コミュニケーションの問題が原因の根本にあって、お互いの誤解を埋められるように真摯に対話する必要があるのだと考えられる。

現実世界の話は映画のようにはいかないでしょうけど、コミュニケーションという観点から様々なことを考えさせられる内容だった。

そしてエイリアンの書く、筆で丸を書いたみたいな文字の細かい出っ張りや払いで意味が変わっていて、様々なパターンを収集・分析して共通点や相違点をあぶり出しながら意味を読み解く言語学者の解読シーンにも好奇心をくすぐられた。

また、ほとんどの映画では現在の自分と過去の自分を描写しているが、本作は圧巻のラストで現在の自分と未来の自分を描写していたというとても斬新なフィナーレだった。

◆最後に…

人間は問題が生じたときに自分の経験や誰かのアドバイス、ネット情報、本などを駆使して解決しています。
全て過去の遺産を使わせていただいている、そんな解決方法だ。
でも、もしかしたら、自分の知らないところ、例えば夢とか、ふと浮かぶような思いがけないアイデア、突然心に湧き上がる変な気持ち…
科学的に証明できないような、この世のすべての事象は未来の自分が伝えてくれる”メッセージ”なのかもしれません。

人間は脳の10%しか使っていないと言われています。
残りの90%を使えばどうなるのか…
未来なんて余裕で見えてしまうのかもしれません。

でも人間皆、何かしら気づいていない能力があるはずです。

『答えは自分の中にある』

ルイーズにとって、大切な娘の『Arrival』は『Departure』よりも大切だったのですね。

絶対に失うと分かっていても、手に入れたいもの、出会いたい人、そんな宝のようなものが私達にもあるはずだから……
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