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メッセージのjohnのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.2
物質、言葉、時間
人間世界での以上3つの因果関係が圧倒的他者(地球外生命体)と触れ合うことで、崩れた時、人はどうなるのだろう?

まず物質は物質でしかなくなる。
そこに共通概念はない。移民が母国で見慣れない動物について質問をした時、カンガルーは、先住民のアボリジニーにとって、訳の分からない袋に子供を入れる動物という意味だったという都市伝説がこれを上手く表している。言葉は所詮後付け。

つぎに発達し過ぎた言葉は一度なくなり、事象を極めて感情的にそしてシンプルに捉えるようになる。すなわち喜怒哀楽が複雑な感情から蒸留される。

最後に過去、現在、未来というリニアが崩れ、全ての時間を自由に行き来できるノンリニアの世界観を享受する。

文字通り、常識破り。

原作小説はブラウン大学コンピューターサイエンス学部卒業のSF小説家という異色の経歴を持つ中国系アメリカ人の、Ted Chiang。
フェルマーの定理とソシュールの言語理論を組み合わせて、残酷な表現も入れず、静かな現代人の頭を疲れさせる良い頭のストレッチを作った。
重厚でミステリアスな雰囲気を土台に、無駄な表現を削った、ミニマルなSF禅アート映画。

ただ黒くて大きい地球外生命体ヘプタポッドや水墨画のような表義文字も印象的だった。

時間の概念が薄れるというのはインターステラーなどで既視感のある設定だったが、言葉を通じてフラッシュフォワードを体験して、それを身に付けていく主人公の様子は新鮮。

※以下別者解説を抜粋

フェルマーの定理
「光というものは、かかる時間が最も少ない経路をたどる」
なぜ、光はあらかじめ最短経路を知っているのだろうか?
最短距離をたどれるということは、光は最初から未来を予知できているのでは?
光はノンリニアな性質。


ソシュールの言語理論
「異星人と我々地球人とは、話す言葉が異なる。話す言葉が異なるのであれば、世界の見え方も違うはず」
我々が目にしているこの世界は、言葉によって編み上げたもの

ソシュールの言語理論によれば、言語には「INU」という発声される音としての側面(シニフィアン)と、「犬」という概念・意味としての側面(シニフィエ)の2つの機能がある。

我々は素朴に、「まず目に見えている客観的事実がある。それらに対して言葉を割り当てている」と考えている。
しかし、ソシュールの言語理論によれば、この世界が完全に逆転してしまう。まず「INU」という音を割り当てた言語体系があって初めて「犬」という概念が存在し得る。
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