まっつん

葛城事件のまっつんのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.8
観た後に頭痛を催しました笑。あまりのキツさにドンヨリでした。しかしこれはですね....個人的に今年ベストの一本になりました。

とにかく全編に渡って胃がキリキリするような緊張感に満ちています。なぜここまでエゲツなく不快なのかというとこの映画が我々と地続きの日常描写で構成されているからです。だからキツイと。しかも出てくる人物は皆嫌な連中なんですが、彼らの嫌な部分は観ている我々が共有しがちな部分であるが故にさらにキツさが増しているわけです。

そして葛城家はなぜここまで壊れてしまったのか?この映画が出す答えは「分からない」ってことですよね。どの時点でかもなにが原因かも何もかもが分からない。なんならまだ幸せだった葛城家の風景が回想で描かれるのですが、その時点で既に後に家庭崩壊を迎えるフラグはビンビンに立っているんですよね。この絶望感。さらに小さな歯車のズレを見ないことにし続けてきた結果、南果歩が発する「なんでここまで来ちゃったんだろう...」という言葉の絶望。

やはり何と言っても葛城清を演じる三浦友和ですよね。とにかく不快な人間です。彼は自分が思い描いた父権的な家族像を誰よりも求めていたが故にこういうドツボにはまってしまう。そして葛城家の中でも最も興味深いキャラクターが長男、保だと思いました。父親に抑圧され、良い顔しかしてこなかったために楯突くこともままならないと。彼が最後にたどる道筋もとにかく悲惨。人のせいにも出来ないくらい抑圧されてしまったのか...という。

次男の稔、妻の伸子もとても興味深いキャラクターでした。もう一人の主人公とも言える田中麗奈演じる死刑制度反対活動家の星野。彼女も思い込みが激しいとしか思えないけど真っ直ぐなところがあるから憎めないキャラクターでした。そんな彼女が引き返せないとこまで崩壊した葛城家との交流で自分の信念が大きく揺らいでしまうという絶望。

というふうに絶望感しかない映画なんですが、不思議にもですね、笑える映画にもなっているんですよね。清のカラオケ、中華料理屋でのクレーマーぶりなど、酷いとこだらけの世の中だけどよく見れば笑っちゃうよねというところに救いがある映画だとも思いました。