土偶

ロシアン・スナイパーの土偶のレビュー・感想・評価

ロシアン・スナイパー(2015年製作の映画)
3.5
帝政ロシアのキーウ近郊に生まれ、ソ連軍の狙撃手となり女性狙撃手史上最高の確認戦果309名射殺という戦績を挙げたソ連の英雄リュドミラ・パヴリチェンコの伝記的映画である。
フィンランドの妖精「シモ・ヘイヘ」やスターリングラードの英雄「ヴァシリ・ザイツェフ」のような従軍以前から銃を持って獲物を狩っていたナチュラルボーン・スナイパーのような人物とは違い、真面目で美しくモテモテの女学生だった彼女が戦争に巻き込まれて病み傷つき失い続けてゆく様が映画の骨子であろうか。
彼女が得意とした標的を通過させてから側面や背後から狙撃を行う戦術や、市街戦が増えるにつれて射程距離と命中精度の高いボルトアクションのモシン・ナガンM1891/30から射程と命中精度が劣る装弾数が倍でセミオートのトカレフSVT-40に持ち替えたあたりの話を見たかったけどそんな描写は全くなくてちょっと残念。
侵攻してくるナチス・ドイツを撃退するためにソ連兵として従軍する彼女であるが、戦場はオデッサ、セヴァストポリと、当時はソ連の一地方であったウクライナである。
この映画はロシアとウクライナの合作でありソ連のウクライナ人英雄を描くロシアプロパガンダの側面が大いにあると同時に、映画の公開直前からロシアとウクライナの紛争地であったオデッサやクリミア半島でのナチス・ドイツとの戦いを描く事でユーロ・マイダン革命以降のロシアとウクライナの融和を説いていたようにも思えてならない。原題も「セヴァストポリの戦い」やしね。
ドイツのファシストから国を守るためにソ連兵として戦うウクライナ人である彼女の様を見た一方、現在はロシアがそのウクライナをネオナチと呼んで軍事侵攻し、ウクライナが祖国防衛のためにロシアと戦っている現実は皮肉以上の理不尽さや不条理さを感じざるを得ない。うーーーん。

この映画を観てずっと読もうと思いながらも手の出なかった『戦争は女の顔をしていない』を読むことに決めた。
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