YokoGoto

お父さんと伊藤さんのYokoGotoのレビュー・感想・評価

お父さんと伊藤さん(2015年製作の映画)
3.5
ー女だからって、必ずキラキラしなくたっていいんだよー

女性の人生の中で、大きく自分に影響を与える男性2人。
それが、父親とパートナー(夫・恋人)である。
最も身近に在る男性は、決して無視できない存在であり、自分の人生の舵を握られていると言っても過言ではない。

それが、本映画のタイトルである『お父さんと伊藤さん』。実に、ほのぼのとしたタイトルではあるものの、タナダユキ監督の描くそれは、お世辞にも決して“ほのぼのとしたもの”ばかりではない。相変わらず、女のみぞおちにくる本作は、いうなれば、キラキラできない女のためのキラキラしてない現実物語である。

タナダユキ監督の描く女は、いつも憂鬱な顔をしている。
でも、その憂鬱な表情とため息は、女性であれば誰でも共感できるものであり、客観的に観ていると、どこか救われるような安堵を感じたりするから不思議である。

タナダユキ監督作品は、そして正直で飾りッケのない所も評価される所であろう。

真正面から『性』を描くし、そこにはへんなオブラートも無い。そんな正直さは、女性からすると、なんだかホッとするのである。

また、タナダユキ監督の物語の恋には、ある程度の障壁がある。

本作の『お父さんと伊藤さん』も、20歳年上の男性と同棲しているし、他の作品でも、可愛い女性とおっさん、男子高校生と人妻など、ある程度の障壁とアンマッチの男女の関係性を赤裸々に綴るのが特徴。

こういう設定は、へんな演出をすると現実離れしてしまうのだが、タナダユキ監督の自然な演出は、決してリアリティを欠くものではない所が素晴らしい所である。

34歳なのにフリーターの主人公が、同じく、54歳のフリーターと同棲していて、そこに父親が入り込んでくる。
なんとなく、無気力に惰性で生きているような主人公が、まさに『お父さんと伊藤さん』との関わりの中で、『なんとなく』落とし所を見つけていく感じは、なかなか心地よい共感が感じられる。

この何とも言えない、
女性の乾いた心を、すっと救ってくれる感じ。

これが、女性監督であるタナダユキ風なのであろう。とても心地よくて素敵だと思う。

思いの外、上野樹里さんがはまっていたこと、リリー・フランキーさんや藤竜也さんとの親和性も良かったこと。すべてにおいて、自然な演出とシナリオで進んでいたことが、作品全体の独特の風合いを作り上げていて、なかなか良いと思った。

いわゆる巷で言われる『キラキラ女子』とは対局にある物語かもしれない。それでも、愛想笑いのできない不器用な主人公みたいに、憂鬱でため息ばかりであっても、必ず、自分の中で未来への出口を見つけることができる。そんな共感と勇気をもらえることは間違いない。
YokoGoto

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