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お父さんと伊藤さんのhrdのレビュー・感想・評価

お父さんと伊藤さん(2015年製作の映画)
3.9
家族のリアルな質感がすごかった。
幼い時から1日に嫌味100個は言ってきたんだろうと想像できるモラハラちっくなお父さんと、距離を置いてきた娘。できることなら離れたい、けどお父さんだから完全に見捨てられない。

「こんな人と 、家族じゃなかったら話もしなかったのに」という関係の中での葛藤とか歩み寄りとかが家族ものの醍醐味だと個人的に思っていたので、どストライクでした。

家族だからこその甘えや、冷たさの中に、1人他人の伊藤さんの冷ややかな優しさがちょうどいい刺激となって、膠着状態の親子関係をゆるませていく様が秀逸でした。
伊藤さんの発言や、おとうさんへの態度は「60近くでアルバイト、若い女の子と同棲」と少し浮世離れした彼だからこその距離感と、ポジティブに言えば包容力だと思います。
伊藤さんだからこそ、おとうさんの嫌味なんて、へのかっぱ右から左へ流して、優しくはするけど、踏み込まず、踏み込ませずに線引きはきっちりする。
大人だなあと思います。

昔なら頑固な亭主関白ですんだかもしれないけど、今のご時世完全アウトなお父さんの哀愁も切なくよかったです。
教師をずっとやってきてプライドだけはヒマラヤのようにそびえ立ち、それでも老いて子どもの世話にならなきゃいけない。
自己主張をする場が子ども相手にしかなくなり、わがまま放題に自分勝手。
身をもてあまし、ままならない自分への抑圧が万引きに向かう。

そんな老人が、いままでの人生で関わることなんてなかったような伊藤さんのような人と出会い、共に生活して、叱責されて、自分の人生の後始末をしっかりつけるというラストは素晴らしかったです。
このおとうさん、頑固だけど、自立していて人に頭を下げられる人だから、なんだかんだで愛されるんでしょうね。
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