モウドクウサギ

ひつじ村の兄弟のモウドクウサギのレビュー・感想・評価

ひつじ村の兄弟(2015年製作の映画)
4.1
厳冬期のアイスランドを訪れ、シンクヴェトリルの光景を目の当たりにした記憶が鮮やかに思い出された、個人的にはとても感慨深い作品となった。2015年のある視点部門グランプリ作品で原題は『Rams』と直球な牧羊家の偏屈兄弟のストーリー。飾らず質実剛健な展開と、被写界深度の浅い撮影で人物の内面を丁寧に汲み取っていく。圧倒的なアイスランドの大地と、その土地固有種の羊の素朴な愛らしさが伝わってくる。兄弟が人生を賭けて育てた羊が伝染病に冒され、全頭殺処分が決まる。超頑固な兄は従わず、弟は泣く泣く自らの手で全頭を射殺…したように見えたが…。家畜の伝染病というテールリスクはどのような畜産農家にもあり、日本でも口蹄疫や鳥インフルの被害が記憶に新しい。この映画では、スポットが当たりにくい畜産農家の苦悩を描き出している点が秀逸だが、物語の構造上、苦しい結末が避けられない。そのため、長年不仲だった兄弟の和解を、衝撃的なラストシーンに据えたアイデアは正解だろう。一方で、なぜ彼らが反目していたのかといった背景や要因は描かれていないため、腑落ちしない点が残るのがやや残念だ。ただ、的確な心情描写や、なんといってもアイスランドの暮らしが垣間見れ未年ラストに相応しい映画だろう。