町でいちばんの素人

ジャニス リトル・ガール・ブルーの町でいちばんの素人のレビュー・感想・評価

4.7
誰とも違っていて、誰よりも他者の言葉や感情に振り回された、感じやすい「リトル・ガール」のひりひりした渇き。その渇きは特別なものじゃない。
非凡な声で歌い上げられた「愛されたい」という平凡で切実な願いは、平凡だからこそ胸を打つ。
本当によかった。たまたま非凡な歌声を持ち、ほかの友達と同じように楽しいから酒やドラッグに手を出して遊んだ、ただの一個の人間の、あまりに心細そうな眼差しに、あなたはなぜそんな目を他人に見せることができるの、それじゃあまりに危うい、彼女の行く末を知るからこそ、たまらなく切なくなった。

監督が70年の10月生まれというのがとても大きくて、この映画の作り手はジャニスのことを「物語」としてしか知らない。
同時代を生きた人でさえ悲劇のヒロインとして消費してきた彼女を、ひとりの生きた人間として掬い出す。それはのちの時代を生きる者だからこそできたことだろう。
エンドロールでジャニスの母親が読む手紙。
「あなたに会ったことはないけれどあなたは世界一の友達です」
僕たちはそういう時空を超えて他者に感じる親密さを、さまざまな形の「物語」を通じてはぐくんでいく。
もしかしたらその親愛の情は、生身の人間同士で培うものよりも本当らしいかもしれない。物語を通じて時空を超えた他者との関係を取り結ぶという、ひとが物語に抱くもっとも美しい幻想。映画って感じだ。映画っていいな。