遺伝子操作により出産前の“選別”が可能になり、人が“適正者”と“不適正者”に分かたれた近未来世界において、“不適正”のレッテルに抗い、自らの夢を叶えんとするひとりの男の姿を描いた映画だ。
男が選んだのはいうまでもなく棘の道で、その世界にとっては道ですらない。男は“不適正”の極みだ。法を犯し、名を偽り、身を削る。
しかし、完璧を装い、ストイックに日々を生きる男は、誰より人間らしい人間だ。自分が自分であるというアイデンティティは、名や体でなく、ましてや遺伝子により決せられるものでもなく、自らの信念にこそあるのだと力強く語りかけてくる。規定された道を行くのではなく、自らの決意と覚悟の先にあるものをめがけ、突き進んでいく。
ラブロマンスやサスペンスといった要素を盛り込みながら、物語は足早に進んでいく。結末に向けて、すべてが動きだし、収束していく。息もつかせぬクライマックスを越えた先にあるものは、美しくてやさしくて、少し苦い。
