イスラム暦は太陰暦であり、月が隠れる期間のあとに月が見えた時点で暦月が切り替わる。この「新しい三日月の初見」は重要な行為であり、地域の長老たちがそれを行う――本作の背景にあるこうした事情を頭に入れておこう。敬虔なムスリムのマフムドは新しい月を初見するため、月の見える縁の地を半世紀ぶりに訪れようと計画する。家族は体調の悪い彼のことを心配し、海外へ出る直前だった息子のヘリを無理やり同行させることにする。ヘリは父と価値観が合わず、ふたりは道中すれ違いを繰り返すが、ある村でイスラム原理主義グループがキリスト教のミサに乱入するところに居合わせたヘリが負傷する。この事件をきっかけにヘリは信仰について考えはじめ、父との関係も変わっていく。はたして父子は月を見ることが叶うのか…。