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スプリング、ハズ、カムのsuuuuのレビュー・感想・評価

スプリング、ハズ、カム(2015年製作の映画)
3.8
冒頭ある古びたアパートでは引っ越しが行われており、大家と思われる女性が長話で重い荷物を抱えて大変そうな引っ越し屋を引き止める。引っ越しをした張本人は随分とのんびりとしており、桜の花びらをつまみ新生活の静かな始まりを噛み締めながら、独り言を空に向かって放っている。長話を聞いてもらえない大家も、独り言の多い引っ越してきた住人も、どちらも相手との対話が成り立っていない不自然さから、この小さな物語は始まる。しかしその後すぐに、この映画のメインが実は上京する娘とそれを見送るシングルファザーの物語であることがわかる。

最初に感じた不自然さは、キャラクターの輪郭が見えてくることで徐々に明らかになっていく。独りになる、相手がそこにいない、ということはどういうことなのか。時折笑いを誘いながら、独りになる娘と遠く広島に帰る父の姿を描き、最後にはアパートのシーンに戻ることでこの円環は閉じるのだが、石井杏奈と柳家喬太郎という本業を他にもつ2人の役者が見せる絶滅危惧種とも言えそうな理想の親子像が眩しい。それでいてベタベタのいい話にならず、いきなり出てきたインドのシーンもよいスパイスになっている。

これからあの娘はどんな風に生きていくのだろう。そんな想いを馳せる心地の良い二時間だった。
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