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ザ・ディスカバリーのりのレビュー・感想・評価

ザ・ディスカバリー(2017年製作の映画)
3.9
死後世界の存在を信じるか。誰しもが考えたことのある死後世界、その証明は絶対に不可能である。しかし、本作では博士がそれを行ってしまった。
死後の世界がある、ことが周知されてしまうと現世で生きる意味が薄れ、自殺者が超増加。だって、現世は苦に満ちているし、楽になりたいから。釈迦は一切皆苦(全ては苦に満ちている)と述べ、現世から解脱することに意味を求める。キリスト教においても、人は原罪を持つ存在であり、神を信仰することによって安泰な死後世界を送ることを目指している。プラトンもイデア界という概念を用いて、現世ではない世界に価値を見出している。このように昔から、苦に塗れた現世とは別の華やかな世界を作り出して現世を耐えていた。だが、神の権威が薄れた現代に、科学的根拠に基づいて「死後世界」が証明された。故に、人々は苦からの開放を求め自殺を次々行う。主人公は「人々は現世ではなく別世界で真実を求めようとする」と述べたが、これがまさしく人間で、ここではないどこかを志向してしまう。アイラという自殺志願者も「ここではないどこか」を志向していたが、主人公に愛を感じ、最終的に現世を生きたいと考えるようになる。やはり、今ここに根を張って生きれるような、ニーチェの超人のような生き方が重要だ。つまらない日常の連続体が人生だと仮定したら、その終わりなき日常にいかに適応して、いかに日常に負けず生きれるかが問われる。
終盤になると、人は死ぬと別の人生に飛べることが分かる。しかし、それを公表するとさらなる自殺者を増やすことにつながる、という良心から研究自体を自粛することに。問いたいのは、強くてニューゲームっていいことか?ということ。後悔や挫折があるからこそ、人生に意味を求めることができるし、人生のかけがえの無さを知ることはできるのではないだろうか。
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