BOB

イルマ・ヴェップのBOBのレビュー・感想・評価

イルマ・ヴェップ(1996年製作の映画)
3.5
フランスのオリヴィエ・アサイヤス監督がマギー・チャンを主演に迎えたダークコメディ。

香港スター女優マギー・チャンが、女怪盗が活躍する古典映画『吸血ギャング団』のリメイク作品の主演に起用され、パリを訪れる。撮影が始まるもすぐに頓挫してしまう。

「映画は魔法ではない。科学から生まれ、ある意志に奉仕する技術である。それは解放を求める労働者の意志である。」

『映画に愛をこめて アメリカの夜』×『ロスト・イン・トランスレーション』のような異邦人映画内幕もの。好みの映画内幕ものということで、面白いシーンはいくつもあったが、全体としてはもうひとつ乗り切れないもどかしさを感じる作品だった。映画製作は大変だ、映画が完成するということは奇跡なのだと、素直に受け取れば良いのだろうか。

衣装、キャスティング、撮影の段取り、映画の嗜好、監督を筆頭とする各制作者同士の人間関係など、ミスマッチの連続で、何一つ噛み合わない。スクリーンテスト後の葬式みたいな雰囲気はリアルだった。本作がカルト映画となった最大の要因であろう奇抜なラストは、ヤケクソになった映画監督による盛大な悪足掻きのようなものなのだろうか。

言語の壁がある異国の地へやってきた、孤独な映画女優マギー・チャン役のマギー・チャン。キャットウーマンを想わせる全身黒尽くめのスーツ姿が印象的だった。

迷走する孤独な映画監督役にジャン=ピエール・レオ。『アメリカの夜』で主演俳優役を演じていた彼が、20年以上経つと映画監督役を演じているというのは感慨深いものがある。相変わらずトラブルメイカーなのも面白い。この映画監督の悩みに寄り添えるつくりだったら、もっと惹き込まれていた気がする。

個人的に面白かったのは、随所で交わされるぶっちゃけ映画談義。
・「『バットマン・リターンズ』はガラクタ映画。程度の低い連中向け。」「1作目もひどかった。3本も作るなんて。」「アメリカ映画ってダメなの。装飾過剰で何でもお金のかけすぎ。」
・「誠実な男を待って、くだらないスティーブン・セガール映画まで観たわ。」
⇒上記2つの女性意見、苦笑いするしかなかない。
・「『ワイルド・ブリット』は大傑作だ。ジョン・ウーこそナンバーワンだ」と熱弁するフランス人ジャーナリストは、「 自己中心的な映画、インテリやエリートのために作っている映画が映画産業を荒廃させた」と嘆く。
・「日本映画のスタッフは軍隊のように統率が取れていて感動した」と語るフランス人制作関係者(?)。

"IRMA VEP"は"VAMPIRE"のアナグラム。

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