架空のかいじゅう

リップヴァンウィンクルの花嫁の架空のかいじゅうのレビュー・感想・評価

5.0
岩井俊二作品、初鑑賞。
監督や作品はだいぶ前から認識していたのに、不思議なくらい見る機会を逃してた。
見終わって、やっぱり以前から知っていたように馴染みやすい感覚があった。

主人公の父親の、
「自分の結婚生活はろくなもんじゃなかったけど、娘の幸せな結婚生活を願っている。」
といった割り切れない感情が、妙に「そういうもんかもな...」と説得力あって染みた。
最初に家族や結婚といった形式に対する温度の低さを描いておきながらも、
疑似家族や二人の花嫁姿に、家族っていいなぁ、結婚っていいなぁ、って強く思わせる。
偽りと事実、不幸と幸せ、女と女、重さと爽やかさ、幾つもの相反するようで同一の片割れとも思える要素がギラギラと柔らかく共存していた。

主要人物三人の、役者自身が持つ魅力が見事に引き出されていた。
西川美和監督が以前言ってた黒木華のイメージとして「シャツのボタンを上まで閉めてる色っぽさ」みたいなこと言ってたけど、これぞ本領発揮。
ここまで徹底的に流される人物像を体現したことも、逆に芯が通っている女優の凄みさえ感じてしまう。フツー感ってフツーここまで出せない。

綾野剛の相槌の胡散臭さと安心感の塩梅もすごい。
常日頃から他者を説得したり誘惑したり丸め込んだりすることに慣れている人種特有の「うん」「ハイ」「うんうん」。でも決して現実のカリカチュアの嫌悪感には振り切れず、それどころか、クセになってくる。黒木華が演じた主人公ほどじゃないにせよ、彼に操られ流されたくなっていく。改めて声の重低音がいい。

そうして流されるなかで出会う、割りと出番遅めでさり気ない登場が良かったCocco。
最初の交流での生っぽい姉御肌な立ち回り。具体的な記憶はパッと浮かんでこないのだけど、現実でこういう心強いお姉さんとの優しいグループ共犯関係をどこかで味わった!!
そこからの猫っぽさ、揺れも含めて、様々なのにどれもCoccoソノ・モノ。

終盤のお酒飲むシーンでの、鑑賞者の感情の操りかたの巧みさというか、持っていきかたが凄かった。
共感できない➡共感できない➡共感でき...ん?➡なんか今感じてる空虚さと可笑しさと温かさにめっちゃ泣けてくるんですけど。

こんなにも見た者に複雑でキラキラしてて嬉しい感情を引きずらせる世界観を描く作家には逆立ちしてもなれない気がした。

2016年の邦画のヤバさが更新され続けて止まらない。