れじみ

ミュージアムのれじみのレビュー・感想・評価

ミュージアム(2016年製作の映画)
3.7
週刊ヤングマガジンで連載された同名漫画を実写化したサスペンス。

連続猟奇殺人を取り扱っているのにR指定されていないと言う時点で分かる人には分かるだろう。
死体の描写はきちんとあるが作り物感が強く、殺人を行う直接的な描写はほぼない。
少なくとも地上波で放送出来る描写の限界は超えているため、普段からあまり映画に触れていない層には衝撃的に映るかもしれないが、ホラー映画やスプラッター映画に慣れ親しんでいる層、そうでなくても日常的に映画を観ている層からすれば、正直こんなものかと言った感想である。

やはり特に残念なのは犯人の描写。
この手のジャンルを扱うのであれば、犯人の描写は必要最低限にすべきで、自ら姿を現す犯人など言語道断である。
犯人=カエル男の初登場シーンは本来であれば相当の恐怖として演出されるべきなのだが、凶悪性は感じ取れても見た目はただのコスプレおじさんでしかない。
作品全体の雰囲気を丸々ホラーテイストにする必要はないが、カエル男に関してはもっと恐怖性を孕んだ存在にすべきだった。

大友啓史監督だけに映像は良いのだが、雨の日にしか殺人を行わないと言う設定があるのであれば、ほぼ全ての映像に雨を降らせた方が良かったのではないか。
世界観の統一が出来ていないのは勿体ない。

ここまで批判しかしてきていないが、日本社会の問題点を作品内に提示している点は評価出来る。
裁判員制度の脆弱性、冤罪、そして日本警察の甘ったるい対応。
警察の描写に関して言えばもしかしたら製作側が意図していない可能性もあるが、あのラストのバカみたいな構図を観ていると、日本警察の良くも悪くもな行政対応を皮肉っているように見える。
提示しただけで何かしらの道を示しているわけではないので、それほど高く評価は出来ないが、量産型のサイコサスペンスよりは遥かに良く作られている。

そして作品を通して家族の物語になっている点も良い。
家族を疎かにしたからと言ってさすがにここまでの事態になる事はありえないだろうが(笑)、他人事ではないなと思わされた観客も多いのではないだろうか。
しかし家族の物語にしたのであれば、尚更ラストの日和具合が気になるところ。
比べるのもおこがましいが、この手のジャンルの最高峰のひとつには「セブン」があり、あれは最後まで徹底的にやりきった部分も大いに評価されている。
本作においても終盤まではかなり踏み込んだ描写をしているのだが(あからさますぎてミスリードだと気付く観客も多いと思うが)、肝心要の部分で日和ってしまっている。
このあたりがR指定を受けなかった大きな要因であり、評価に繋がっていない原因であろう。

主演の小栗旬は若手俳優の中では抜群の演技力だが、本作では明らかに力が入り過ぎである。
もちろんそう言う役柄なんだからと言われればそれまでだが、演技をしている感が強くなってしまっている。(特に前半)
「今なんて言った?」などと言う古臭すぎる台詞を言わせたりしているところを見ると、監督の演出の失敗であろう。(それほど細かく演出しているとも思えないが)

一方で出番の少ない尾野真千子は物凄い存在感を放っている。
終盤の狼狽するだけの小栗旬に対して、強烈な意志を持って行動する尾野真千子、この家族がここまでどうやって生活して来たかがよく分かるシーンである(笑)
女優陣で言うと、同じく出番は短いが、田畑智子、市川実日子も印象に残る。

本作はひとりの男の悔恨と気付きを描いているが、それならば尚更中盤以降の展開を練り直してもらいたかった。
やはり主人公と犯人と言うものはやたらめったら接触すべきではない、本作を観るとそれがよく分かる。
れじみ

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