鹿江光

君の名は。の鹿江光のレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
4.3
≪85点≫:あの日を経験したすべての人へ。
あの日から5年が経った。僕たちは果たして乗り越えることができたのだろうか。その問いに対する答えは、おそらく無い。既に歴史の一片として認識している人。日常の思考からも抜けてしまっている人。大切な人を失い、あの時間で止まっている人。まだあの日に生きている人。死んだ人。
新海監督は、様々な舞台で「すれ違う男女の心」を映し出す天才だと思う。今までの作品でも、その世界での当事者である男女が時に向き合い、時に背中合わせになり、やがて大切なものを受け取りながら、それぞれの道を進んでいく。そんな展開が顕著に観られた。
今回もその「男女の心」の機微は、より鮮明に描かれている。夢の中でだけ入れ替わる彼らは、互いの気持ちと向き合いながら、実際に彼自身・彼女自身として生きることで、互いの気持ちを知っていくことになる。面白おかしく、真剣に、描いている。そしてさらに大きな繋がり、仏教的な「縁」にも似た繋がりを巧みに表現していた。人生という流れの中にある「偶然」を、一種の「必然」としてしまうような、美しい日本古来の「心の結び」が本作の軸に通っている。
今までと同じであったら、この作品も「男女の心」を映しただけで終わっていただろう。しかし、本作の新海監督は違った。そのお馴染みの描写には、決定的な土台となるテーマがあった。
空を横切る彗星に美しさを見出すように、「あの日」のことをどこか他人事のように捉えている僕たちにとって、本作が残した主張はとてつもなく大きい。大きな波に多くの命が攫われたあの日、そこには確かに去ってしまった者と残された者の、行き場のない姿があったはずだ。残念ながら、現実で両者が再び出会うことは決してない。深い悲しみと、やるせない心の折り合いでしか、前に進めなかった。
そんな現実のために、本作の物語は存在する。現実を生きるためのファンタジーが、『君の名は。』の中にはあった。乗り越えられたかどうかは分からない。けど、このファンタジーによって浄化されていく心もきっとあるはずだろう。せめて物語の中だけは、しっかりと心の行き場があって良い。
大きなテーマの上にいつもの心情描写を映し出し、良い意味で現実とすべての人を巻き込んだ、素晴らしい過程であり、着地点であり、物語であった。
所々でRADWIMPS色の強い部分もあったが、彼らの音楽がまた良い味を出していて、ちょうどいい主張をしていた。歌詞をじっくり追うと、また感慨深いものがある。
総合的に言うと、面白い作品であり、好きな作品であった。大満足。あと僕も自分のおっぱいを揉んでみたい。
鹿江光

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