ほおづき

何者のほおづきのレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
5.0
映画『桐島、部活やめるってよ』を観た後に原作が気になってこれと2冊を一気読みして、朝井リョウさん何者!?ってなって映画館観に行った思い出。

「何者」かになりたい。
たぶんそれは生きている理由みたいなものを探して強かに立ち回っていることからくる衝動みたいなもので、別にそれ自体は悪いとはぜんぜん思わない。
自分に変化の余地やポテンシャルを感じているなら、今とは違う何者かになりたいと望むことはそれほど恥ずかしいことじゃないと思うから。
 
でも現実はそれとは別に、生まれや育ち、新卒までの経歴で就職後の方向性や人生のかなりの部分が決まってしまって生活水準は劇的に変わることは少ない。
努力すれば何者かになれるっていう空気は今の社会には漂っていないのが現実なんだと思う。
少なくとも学生時代の空気はそれに絶望しちゃうには十分すぎて・・・
  
小手先の変化を強いられていても全体としてはあまり変わらないし変われない、そんな人生を見据えたうえで実現可能な幸せを追求するのが精一杯で、夢には遠く及ばないけどプライドが傷つかない程度のジャンルの仕事に就いて、ニートするよりはマシだと自分に言い聞かせてみる。
   
『ソラニン』の主人公がまさにそれで
『ラ・ラ・ランド』中盤で見せたのもそれに近いと思う。
『セッション』ではそのくすぶった欲求不満のぶつけ合いのラストだったし
何者にもなれず腐ってしまうのが『劇場』なんだと思う。
 
漫画でもJPOPでも、世の中は夢追い人のコンテンツで溢れていて、それが悪いことでも良いことでも無いと言う。 

そのことが示しているように、世の中には「何者」かになりたい気持ちと突きつけられた現実の両方を抱いてアンビバレントな気持ちに引き裂かれてる人で溢れているんだと思う。本当は。

そしてそれが、SNSの本垢で大義名分や建前を言い、裏垢で本音を吐き承認欲求を満たす行為に繋がっていくんだと思う。

『桐島、部活やめるってよ』と同じく、現代人の闇とまではいかないまでも、そんな生々しい繊細な心の内側を的確に物語化してると感じる作品だった。