カラン

神様メールのカランのレビュー・感想・評価

神様メール(2015年製作の映画)
3.5
父が神であるエアちゃん(10歳)は、父が人間を支配する仕事部屋にこっそり入り、人間を制御するためのPCにアクセスして、全人類の携帯にその余命を知らせるメールを一斉に配信した。エアは家を飛びだす際に兄のJCに相談し、使徒を6人みつける旅に出る。1人見つかると『最後の晩餐』の絵に使徒が増えていく。エアと6人と動物たちのエピソード集。

タルコフスキーのように寡作で才能豊かな映画監督ジャコ・ヴァン・ドルマル(1957~)による『トト・ザ・ヒーロー』(1991)、『八日目』(1996)、『ミスター・ノーバディ』(2009)に次ぐ長編4作目が本作『神様メール』(2015)である。愛らしいジャケ写からはとうてい想像できないくらいに、大きな物語を追っている。

ジャコ・ヴァン・ドルマルの対象は、学生アカデミー賞で外国映画賞を受賞した短編”Maedeli la brèche”(1980)以来、一貫して弱者である。この『神様メール』では虐待される子供、浮浪者、性的変質者、身体障害者、性同一性障害、等々と勢ぞろいである。彼らは虐げる神に反旗を翻し、ニヒリズムに覆われた世界の空に花をさかせようとし、キリストの父こそが悪と不幸の根源であると名指しているようだ。しかしその結論は「明日のことを思い悩むのはおやめなさい。なんとなれば、明日には炉に投げ込まれる野の草が明日のことを恐れてはいないのだから。」ということになってしまっていないだろうか。本作の原題は”Le Tout Nouveau Testament”(まったく新しい新約聖書の意味)であり、新・新約聖書を企図したが、新約聖書の手の内にしっかりおさまっているように思える。

カトリーヌ・ドヌーブを担ぎ出して、新使徒にして、ゴリラと子供を作らせる。また、恋する殺し屋は男であるが、同じエアちゃんの使徒の女と不倫して、妊娠で自分の腹を膨らませた。生物学的ドグマを破壊する描写は楽しいけど、それだけにした方がよかったかもね。まあ、そういう映画は既にあるか。(^^)


『八日目』以来の入念な加工を施した画面は、中島哲也によく似ている。ファンタジー成分は中島哲也より多いかもしれない。映像の加工に興味のある人は楽しいだろう。ゴリラのうなり声はかなりの迫力で収録されていた。
カラン

カラン