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神様メールのJIZEのレビュー・感想・評価

神様メール(2015年製作の映画)
3.6
ブリュッセルに聳え立つ高級アパートの一室を舞台にパソコンで世界を管理し創造する横暴な神(父親)とそんな父親に愛想を尽かす娘との数奇な運命を紡いだ喜劇映画!!使徒を探し出す迄の序盤30分を賞賛!!コレはベルギー産の運命or確率を伺う映画ですね。まず原題『The Brand New Testament』は"最新約聖書"と訳せ論理的にもキリスト教の矛盾に迫る話,なんですが。発想の転換とはまさにこの事だと,上手く出し抜かれた。結論から言えば,奇抜な発想そのものは年間ベスト級に秀でた1本,でした。特に暗雲が立ち込め秩序が廃される序盤30分,暗黒調に犇めき寓話性に飛ぶ世界観の作り込みは秀逸でしたね。またシナリオ自体は至って簡単。要約すれば主に"不幸を好み長年世界を牛耳る支配者(神)を反逆者(娘)が世界(常識)を変えるため自力で旅を重ね溝を補完する"という6人の使徒を基準軸にオムニバス形式を採用した黒笑映画,ですね。この映画で1番面白かった箇所が序盤,10歳娘イアが神様のパソコンを逆手に取り世界中の携帯に対し死期を告知するメールを一斉送信するんですが,それが影響し"悩める側(短命)と悩めない側(長命)"の行動があからさまに区別されこの辺りの皮肉加減が結構笑えましたね笑。主に前者は危険物を周りから遠ざけ安全圏を確保する行動を取るんですが逆に後者は絶対にそれやれば即死だろ!って事をやり続ける姿勢とか爆笑です。コレは万人に言える事で日々日常を大事にしてない人ほど焦燥感に駆られ,逆の立場な人ほど余裕の表情で死期を受けとめる,という主に"死生観の揺さ振り"は核部な魅力に感じた。

→作品概要。
監督は『トト・ザ・ヒーロー(1991年)』の異才ジャコ・バン・ドルマル。主演には『チャップリンからの贈りもの(2015年)』のブノワ・ポールヴールドや名女優カトリーヌ・ドヌーヴ等が集う。また本作はゴールデングローブ賞®外国映画賞にもノミネートされベルギーではあの『マッドマックスFR(2015年)』を凌駕し歴史的大ヒットを記録しました。

→主題が死期迫る人間の人生相談に変更。
ただこの作品。評価が割れる構造の張り方をしててね。つまり中盤,本来は娘エアが"新・新約聖書"を作る(or父親から逃避行)目的で地上に降り立つ事を決意するんですが,つまり12使徒を18使徒にすべく6人使徒を選び出す旅の導き方が序盤の父親(神)が横暴なパソコン機能で暴れ回る軸点と微塵もクロスしてないんですよ。てっきり自分自身は横暴な機能の起源を破壊するため30分程度で仲間を集め出し父親を屈服させる物語,だと予測してたんだがむしろ使徒6人の人生相談が過去軸の短エピソードを回想演出で長尺を浪費させ6人分の説明がダラダラ始まってしまう。つまり主役の少女が外の世界に触れ感性を養う地味な話に突如転化してしまう。ましてや父親との対峙もアッサリ済まされ軸点の置きどころに正直感情移入ができなかった。唯一非モテ男性マークとライフル銃を所持するフランソワのエピソードは胸打ちましたが。立脚点の置き場所に失敗した感じは序盤の今後世界がどうなるのか予測できない不穏感を考慮すれば否めない印象です。

→総評(10年間引きこもり少女の冒険譚)。
背景を掘り下げればキリストネタ満載な宗教映画です。不幸な境遇でも考え方次第で視界(世界)の見え方は180度違う事を謳う作品,だとすれば未消化感が否めない作品でした。理由は中盤以降で失調症を患い刑務所6年目の老人と長き果てしない仲間を集める旅路を最後まで永遠に見せられるため。また主に"デスワーク(死の漏洩)"の情報漏洩を謳うSF方向の物語像を予感させた序盤の流れが長続きすれば大傑作に値してた感じです。父親が娘を探し斧を振り回しドアノブを開けるくだりもキューブリック作品の『シャイニング(1980年)』を意識したんでしょう。娘VS父親の因縁構図が中盤以降で一切生きてこない物語の配され方は心底序盤30分が雰囲気ともに最高すぎただけに残念で他ならない。あと洗濯機のダクトを通じ裏世界から表世界に脱出を図る論理性もエクスキューズが過不足すぎました。物語の鍵を握る母親,女神の存在も刺繍やサッカー鑑賞,掃除が好きで言語を持たない設定..キャラ造形が振り返れば重要な役割を最後に果たす人物なんだしここら辺の雑さも否めないなと。最後に"ある人物"がウズベキスタンに輸送された理由も探れば背景がありそうです。あと中盤に登場する火葬場が理想郷のメタファーのよう描かれていた意図は最後まで謎でした。また最後に娘エアが第四の壁を標的に観客側に語り掛けるメルヘン演出も裏付けがないぶん不可解さは残る。まとめれば..中盤&終盤の大失速感は否めないが普段あまり触れない死生観を咀嚼し直し虐待,情報漏洩など悪しき問題も込め余生を噛み締める作品では是非お勧めします。
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