15年前に1度だけ文学賞を受賞したことのある良多は、「小説のための取材」と理由を付けて探偵事務所で働いている。良多は離婚した元妻の響子への思いを捨てきれず、響子に新しく恋人ができたことに呆然としていた。良多、響子、息子の真悟は、良多の母・淑子の家に偶然集まったある日、台風の一夜を皆で過ごすことになる。
是枝監督作品の中では『歩いても歩いても』が抜群に好きなんだけど、阿部寛、樹木希林のコンビという事でこれも好きな作品となった。この二人の「人の悪口」描写は天下一品過ぎる。
全体的な空気感としてはとにかく気まずさが身を包む。息子とか、響子の姑に対する気まずさとかもそうなんだけど、小説家の家にいた夢諦めた娘一瞬出すあたりとか本当に邪悪な作品だなとか思ってしまうわけです。樹木希林がその小説家をちょっと狙ってそうだけどその娘を不憫に思ってる感じとか、本当に人間臭くて好き。
新しい恋に生きようとしてるのは樹木希林だけではなくて、真木よう子演じる響子も同じ。だけど、新婚相手は割と打算で選んでいて相手に対しては少し打ち解けていなそうだなというところも感じる。
女性の恋愛観の中はファイル上書きではなく、油絵みたいなものだみたいなセリフがあるけれど、響子もその一人。ダメな男とはわかっていつつもなんとなく縁が切れない感というものがとてもわかりつつ、とはいえ元に戻れないという事は確実なので寂しさがある。
良多がめちゃめちゃ自分に似てるし、文学賞受賞したとかでホント未来の自分見てるみたいできつかったっていうのもある。
良多の公園での「わかってるよ」っていう時の表情が本当に手に負えないくらい悲しかったなぁ...。
ただ一方で、結局彼に対して世の中はすごく優しい世界を描いていて、うん、それでいいの？という気持ちも芽生えてしまった事は事実。
人間が「海よりも深く」何かを追い求めることができるなんて事は稀で、みんな何かを諦めて打算的に生きていくんだろうな。だからこそ真悟はホームランの人生ではなく、フォアボールを目指すんだ。それでも不幸せというわけではなく、宝くじを拾う事に幸せを見出したりできるんだろうなと。
『歩いても歩いても』オマージュも多くて、キャラの名前が同じだったりとか、蝶についての言及だったりもあってなんとなく地続きな感じが否めなかったり。小説家の人が自己顕示欲の強さ見え隠れさせる部分もちょっと医者の父と被るよね。
