トメさん

海よりもまだ深くのトメさんのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
3.9
「どうして男の人は、今を愛せないのかねー」


男は、過去にすがったり、さらには未来にまですがったりしてしまう。

そして、過去にすがることは「優しさ」だと思い、未来にすがることは「夢」だと思う。

そうすることで、自分を保とうしている。


阿部寛演じる主人公はまさにそういった男の典型である。でも、自分もそういった人間だなーとつくづく思う。


そして、この映画のもっとも大事なところは、過去未来にすがっている男の周りにいる女性の深さである。お母さん、元妻、姉、職場の後輩、仕事相手など。


こういうタイプの男は、こういったまわりの女性を見下しがちだ。

年老いた母の生活感のある暮らしぶりや、些細な小言などを著し嫌悪している。そういった感情がいろいろ丁寧に描かれているし、自分が見ても、「あー、女の人のこういうところ嫌だよなー」と思うところが多々あった。自分も実家に帰ったときに、そういったお母さんの一面や小言を煩わしく思ったりすることがよくある。


でも、おかあさんのそういった飾らない、無神経な一面というが、母たる深さを作るものなんだなと見ていて思った。細かいことは気にしない。見かけ、見えなんて気にしない。過去も未来も気にしない。今をしっかり見ている。それが、お母さんの寛容さの原点なのかな。


男性と女性の典型的な違いというのが、主人公の息子と主人公の姉の娘の性格の差というのでも対比しているのかなと思った。


まったく、前半と後半で、主人公の人生に変わりはないのだが、台風の日のお母さんや元妻の「深さ・寛容さ」に触れることで、主人公の見え方や未来への道が変わって見える。とくになにも起きてないのに。そして、主人公自身もそういった深さには気づいていないのではないかな。


でも、実際に実感できない深さで救われている。
トメさん

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