akqny

好きにならずにいられないのakqnyのレビュー・感想・評価

好きにならずにいられない(2015年製作の映画)
4.5
誰かが誰かを想うこと。そして誰かから想われること。
そのすれ違いは辛く苦しくて、でもその重なりが少しでもあるととんでもない僥倖に思える。社会なんてそのすれ違いと重なりの繰り返しなのかも。

普通とは案外薄っぺらいもので、その重なりがたまたま自分の身近にあるかどうかな気もする。人はそのすれ違いを元来持っているはずなのだが、社会とは人が生きやすいように重なりを多く作った副産物でしかなく、そこに大きな意味はないのだろう。

人が2人いれば2人の重なりが社会だし、7億人なら7億人の重なりが社会とされる。
人より一人の時間が好きで、カートコバーンが好きで、おもちゃが好きで、コーヒーが飲めず、童貞でも。ましてや料理できず、鬱病で、大衆音楽が好きで、花が好きでも、それはその人としてその存在に何ら不思議はないはずである。

もちろん倫理とか理性という最も人間たらしめる規範は社会システムに必要なのだが、問題はそのすれ違いを必要以上に掻き立てること。
行きづらい世の中はきっとこの先もそうなのだけど、そうしたすれ違いに集団も個人
ももっと寛容になれたらと思う。
そうあるためには、きっと誰かを想う心、想像力が必要なんじゃないかな。


昨日会社の鬱病の人の話を聞いた。その人は鬱病で半年も欠勤して出勤してもほとんど何も仕事しないらしい。おまけに鬱病を口実に平気で遊んでいるそうで、態度は一人前で給料も貰ってる。会社に貢献しない人材に給料なんて払う意味あるのだろうかなんて考えてたけど、この映画見て今日考えが変わった。
そもそも人は完璧じゃない。すれ違いしかないし、その溝を埋めてなんとか社会というものを作っているに過ぎない。だから社会から外れた人、自分の想いを返してくれない人に、往々にしてイライラする。社会に対してリターンを求める。
会社なんてたかだか何百人の組織で社会でしかないのだ。鬱病の人は会社に貢献しないかもしれないけど、彼が会社からもらった想いで、誰かをめちゃくちゃ想っているかもしれない。社会はもっと広いのだから。そういう狭い考え方をしてしまった自分を恥じた。


アイスランドの島国独特の閉塞感と画面全体から伝わってくる冷たさが見事にマッチしていて良いし、撮り方も素敵。寒い日の朝に見るべき映画。
akqny

akqny