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人魚姫のつのつののレビュー・感想・評価

人魚姫(2016年製作の映画)
4.2
【やっぱりチャウシンチーは映画をわかってる!】
少林サッカーで世界中のボンクラにガッツと感動を与えた中国の喜劇王チャウシンチー。
彼の作風を一言でまとめるのなら「コテコテ」に尽きる。
とにかく登場人物全員の喜怒哀楽が過剰で、繰り出されるギャグもかなりベタ。
物語の展開も何百回と見てきた大筋から1ミリも外れずCGもチープこの上ない。
だからハリウッドの驚異的なクオリティの映像や繊細な語り口に慣れた我々日本人にとってチャウシンチーの映画はそれなりの心構えを持って見ないと取っ付きづらいかもしれない。

そこでチャウシンチーは単に下手くそなのではないかと言う疑問が浮上してくるかもしれないが、それは断じてないとは言える。
彼の作品は確かに歪なほどベタではあるがそのベタさの裏には確固たる映画への造詣と理解が深く根付いているからだ。
例えば、何度も連発されるコテコテのギャグもそこに関わる人物達は全員「必死」である。
今作においても、タコ兄貴の鉄板ギャグやシャンシャンの暗殺計画の失敗、警察署でのやり取りは全てキャラクターたちが必死になって間抜けな行動に走っている。
その空回りぶりが滑稽に見えるのであり、観客は心底笑えて仕方がないのだ。
これはそれこそチャップリンやキートンの時代から連なるコメディ映画の歴史における鉄則中の鉄則であり、芸人がテレビでやる一発芸をそのまま披露しているだけの映画とは比べものにならない。


チャウシンチーの映画のもう一つの大きな魅力に「溢れんばかりの見世物精神」がある。
先程から繰り返し「コテコテ」という表現を用いているが、シンチーの映画のアクションシーンは実はかなり引き出しが多く楽しい。
今回もクライマックスの、落下と上昇のドタバタ劇の楽しさは最高の一言。
しかもそこから超ハイスピードボートチェイスに展開するのも楽しすぎるでしょ!
勿論ハリウッド映画ほどの派手さは無いが、アクションの引き出しの多さとそこに連動するギャグの気持ちよさはチャウシンチー映画ならではである。

しかし一番シンチー映画の信頼できる点は「熱量」だ。
少林サッカーがあそこまで支持を集めるのは、カンフーオマージュの楽しさだけでなく、屈辱にまみれた負け犬たちがなけなしの根性だけを頼りに立ち上がり勝利を掴みとるストーリーに何度見ても魂が震えるからだ。
本作「人魚姫」にも作り手がこめた「熱量」がしっかりと感じられる。
わかりやすいものでは、我々日本人にもお馴染みである環境汚染問題や、異民族排斥運動への怒りのメッセージが感じられる。
また、そういうメッセージだけでなく普遍的なラブストーリーとしても実はかなり感動するのだ。
そしてそれを描ききるための人間ドラマはベタどころか重層的と言って良い。
個人的にグッとくるのは、終盤で愛する人にボーガンを向けるリウの妻の涙。
この涙一筋だけでも、彼女がただの類型的な悪役に収まりきらないキャラクターたり得ているのだ。
或いは冒頭に出てきたジェットスキーやインチキ動物園の伏線がしっかりと回収されるのも見事だ。

このようにチャウシンチー映画は、誰にでも深く刺さるメッセージやドラマを王道的な展開とギャグで包んでいるからこそ、万人に開かれた人気を誇っているのだろう。
表面的なチープさに惑わされることなく最後まで見て欲しい一本です!
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