MasaichiYaguchi

聖の青春のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

聖の青春(2016年製作の映画)
4.0
幼少期から難病と闘い、名人位を目指して将棋を指し続けた村山聖の僅か29年の生涯を描いた本作では、主演の松山ケンイチさんが役の為に20キロ増量したり、登場する実在の人物たちが愛用したもの、ネクタイやメガネ、将棋の駒を実際に小道具として使用したりと、作品に対するキャスト、スタッフの熱い思いがスクリーンから伝わって来る。
「羽生世代」という言葉があるが、これは羽生善治さんと同学年か1学年違いで、順位戦A級を経験した棋士を指す。
本作の村山聖は強豪ひしめくこの世代の一員で、「東の羽生、西の村山」とか「怪童丸」の異称で呼ばれた棋士。
彼は5歳の時に腎臓の難病「ネフローゼ」を患ってから常に病と共に人生を歩み、そして、この病気生活の中で人生を賭ける将棋と出会う。
だから聖にとって病は、健常者の若者が経験するであろう、恋愛、結婚、家庭生活から隔てさせるものだが、逆に小市民的生き方から解放されているからこぞ、病気を除いて何ものにも煩わされることなく将棋と向き合えたのではないかと思う。
そして彼は、師匠や両親をはじめとした周りの人々の無私の愛や応援で、物理的にも精神的にも支えられて生きている。
この聖を演じるにあたって、体重を大幅に増やして容姿に似せて役に臨んだ松山ケンイチさんは恰も本人が乗り移ったかのようだし、同様に、聖が憧れた生涯のライバル羽生善治を東出昌大さんは渾身で演じていて、対戦シーンをはじめ、2人が語り合うシーンは心に深い印象を残す。
この作品を観ると、人生は生きた長さではなく、どれだけ精一杯生きたか、どれだけ充実していたかにあると思う。
それでも29年という生涯は余りにも短く、師弟愛や家族愛に支えられた凝縮の人生だったとしても、将棋での更なる勝利や果たせなかった名人位への渇望を思うと、聖の無念さや遣る瀬無さに激しく心を揺さぶられます。