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パターソンのSugiのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.3
映画のテンポ感が個性的で光る、魅力的な一作。
ゆったりと進むレイジーな1週間のルーティーンの中に詩的な美しい芸術性を見出す、不思議な体験ができる。


同じような毎日の繰り返し。なのに、実は無意識にいつも新鮮な体験をしていたり、知らぬ間に新たな知識を手に入れていたことに気付かされる。
それは、アダム・ドライバー演じるパターソンが勤務している「バスドライバー」という職業に分かりやすく表れている。

いつも決まった時間に決まった場所へ訪れ、定められたルートをぐるぐると周回する仕事。

代わり映えの無い同じことの繰り返しに見せかけ、パーティーで出会った女について楽しそうに話す男達や、無政府主義について熱く語り合う男女2人組など、同じ仕事の中でも新たに出会う人は1日1日全然異なっている。
全く同じ日などないことが作中で描かれている。
双子の話を愛する妻から聞いた後は、やたらと双子が目に付くようになるなど、細部まで繊細に描かれている点にもこだわりを感じる。


主演を演じたアダム・ドライバーは素晴らしい俳優だった。
非日常を演じる分には、演技が多少オーバーであったり、エキサイトした雰囲気を身振りや言葉で表せば形になる。
逆に、本作のように映画特有の「特別」を限りなく排除した、何気ない日常を生きる登場人物の心情を等身大で表現するのは、非常な困難を伴うはずだ。
しかしながら、生じうる不自然さを彼は一切感じさせず、日常の中に起こる心の機微や取り止めもない選択の連続を見事に演じ切って見せた。
「スター・ウォーズ」シリーズでの演技も結構好きだったが、やはり良い俳優さんだと改めて実感した。

また作中のパターソンというキャラクターを、1人の人間としてすごく好きになれた。
奥さんの個性を決して否定せず、最大限尊重してあげる姿勢が、しかも結果功を奏してそのセンスを伸ばし、周囲からの客観的な評価をも得ることに成功したストーリーは、人間のあるべき姿を映していた。
「個性を伸ばす」とはこういうことである。
決して否定せず自信を与えることだ。


最近見た作品の中ではかなり上位に入る、隠れた名作。すごく良い作品に出会えて得した気分になれた。
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