あでゆ

アナイアレイション -全滅領域-のあでゆのレビュー・感想・評価

4.7
生物学者で元兵士のレナの夫は、米国の海岸地帯で拡大を続けていた不可解な現象が起こる謎の領域"エリアX"の調査へ行くことへ。しかし調査隊は音信不通の行方不明に。そんな中、エリアXから夫だけが生還するも、瀕死の重傷を負っており意識不明の昏睡状態に。レナは、夫の身に何が起きたのか、真相を解明するため自ら調査隊に志願してエリアXへ。そこで調査隊は、生態系が突然変異を遂げていることを目撃する。

アレックス・ガーランドは本当にぶれない男だなという本作。『エクス・マキナ』と同様に、人間とそのコピーには本質的に違いがあるのかという『ブレード・ランナー』的なテーマをより深掘りして描いている。更にはその普遍的な問いかけだけでなく、本作はSF的なセンス・オブ・ワンダーが詰め込まれまくっているので個人的にはめちゃめちゃ好み。『エクス・マキナ』は雰囲気だけという感じであまりだったけれど。

まずビジュアルセンスがすごい、エリアXの自然風景だったり、その中の生き物だったり、あとは人工物が背景となるシーンでも独特の冷たいトーンがとても美しい。中でもおぞましいのはやはりあのクマだろう。よく見ると頭の側面に頭蓋骨がついていたり細かい意匠が映えるのだが、まあ鳴き声のインパクトとかが凄まじすぎて、それに一瞬で何が怒っていたのかがよく分かる恐ろしさも相まって本当にハイセンス。あとは植物に変化しようとしている人間だったり、極彩色に咲き乱れる花だったり、この世のものではないなにかをこれ以上ないレベルで再現しているのではないだろうか。

それにSF的な解釈、この世界では一体何が起きているのかという部分がマジで新しい。差し込まれる回想や各所での台詞で語られるのは、人間や生き物がどうやって過去に成長や進化を遂げてきたか。それは体内でミクロに行われるコピー活動によるものであるということ。つまりは細胞分裂だ。つまり今の自分と過去の自分は比べてみるとコピーの関係にあって、全く別のものであることが語られている。
そして細胞分裂には稀に突然変異が発生する。正しい突然変異が進化、失敗の場合はそれがガンとなる。進化に失敗した個体は消滅するしか無いのだ。これらが映画全体を通してじっくりと語られていくが、具体的にあの世界で何が行われているのかということは語られない。しかし何が起きているかは明確で、マクロにこれと同じことが地球に起きているということがわかる。つまり全く同じコピーを地球全体で作り上げて、進化を促進しようということ。そして失敗したコピーや古いコピー元は滅びていくということ。
この監督は修辞学のセンスが桁外れだ。何が起きているのかを語ってしまったらダサいから。とはいえ、かたらないからこそネットフリックスでの配信のみになったんだろうな、わかりづらいし。
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