アンタレス

ヒトラーへの285枚の葉書のアンタレスのレビュー・感想・評価

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年製作の映画)
3.8
フランスに勝利した熱気に包まれる、ベルリンの街。この上なく賑わう街の中、クヴァンゲル夫妻の家に凶報が届く。
息子を失い失意に沈むオットー・クヴァンゲルは、戦争とヒトラー総統への怒りを葉書に認めた。人目に触れる場所に葉書を残していく、ささやかながら決死の抵抗活動を続けるオットーに、妻のアンナも協力してゆく。
ゲシュタポの捜査官、エッシャリヒはプロファイルの末、徐々に葉書の出所を絞り込んでゆくが、逮捕には至らない。しかし、一人のナチ党員が届け出た一通の葉書が、事態を大きく動かすことになる。


ペンは剣より強いと言うが、この作品はペンを取り巨大な力に闘いを挑んだ夫婦の話である。
序盤の一人の兵士の死と、勝利に賑わう街の対比が際立つ。この後の陰鬱な展開を暗示させる、良い導入部分だと思う。
どれほどの抵抗活動も無駄だと思わせるのは、書かれたメッセージのほぼ全てがゲシュタポの手元に集まっていたという事実。そして、葉書を拾ってしまった人間も、自分の行動を監視されているのではないか、という疑心暗鬼に陥る。この二つが、作品のサスペンス性を高め、観客の恐怖も煽っている。
そして何よりも、エマ・トンプソンとブレンダン・グリーソンの円熟の境地とも言える演技が、作品に深みを持たせているのは間違いない。
原作小説の「ベルリンに一人死す」も読んでもう一度観賞したいと思わせる良作だった。
アンタレス

アンタレス