こーひーシュガー

リトル・マーメイドのこーひーシュガーのネタバレレビュー・内容・結末

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

好きじゃない、ただ十分健闘した映画

はっきり言います。今回の実写化でアリエルに黒人を起用したことやフランダー、セバスチャンのヴィジュアルは今も快く思ってません。(セバスチャンは見てるうちに慣れましたが…)
しかしいつまでもそれについて批判してても埒が明かないと思い、まずは見てみました。もうポリコレ云々に関しては中立の立場を取ろうと思います。好きじゃないですが批判ばかりも気分が上がらないので擁護も非難もしません……………いややっぱだめだな、反対の立場であることは明確にしよう。
(まあでもそもそもキャスティングなんかより『パイレーツ生命の泉』とか『メリー・ポピンズ リターンズ』などの駄作、ごめんなさい駄作と言わせてください、駄作を作った監督が嫌いなのであまり期待はしてなかった)
実写版ピノキオやピーター・パン&ウェンディと比べるとアニメ版へのリスペクトは感じました。
ただシェフルイとセバスチャンのシーンは入れてほしかった…
スカットルが登場した瞬間フランダーの目の前で魚食ったときは笑っちゃいました😂
アンダー・ザ・シーは楽器を奏でてる感じにしてほしかったですが、歌はどれも最高でした!
歌唱力で選んだという監督の意図も納得です。

最初にアンデルセンの言葉を導入して、ラストで伏線回収の流れも嫌いじゃないです。
トリトン王とアースラのヴィジュアルも好き。
また、トリトンとアリエルが親子ゆえに衝突してしまい、葛藤・後悔し、赦し合い、和解する。ここの感情描写が繊細でとてもよかったです。
ただアニメ版に比べるといまいち最終バトルは盛り上がりに欠ける。あっという間に倒しちゃったから、あれ?もう終わり?ってなった。

この映画のテーマは『声を上げること』そしてその声を『奪わずに聞いてあげること』だろう。沈黙はなんの解決にも導かない。それを教えてくれたと思う。(ポリコレに沈黙しようとした私にはかなり皮肉ですが…笑)
娘を守るためにアリエルの意思を否定し、自分の都合に合わせさせた。そういう点でアリエルの声を"真の意味"で奪ったのはアースラではなくトリトン王ということになるだろう。

〈共存をどのように描いたか〉
今作がアニメと最も違うところはアリエルなどのキャラの人種変更ではなく、終わり方だろう。アニメ版ではアリエルが人間になり、エリック王子と結婚式を挙げる。しかし地上世界と海底世界の境界が崩れたわけではなかった。あくまでアリエルだけが人間界に進出しただけだった。しかしこの実写版では地上世界と海底世界の間にある壁は完全に消えているように思える。アリエルとエリックがボートに乗って世界旅行に行くシーンでボートからの視線としてカメラが陸地を映し出すカットがある。このとき映っているのは人間と人魚(人種、性別は関係ない)が入り混じってこちらを見つめているという多様性をかなり主張した場面だ。荻上チキ氏の『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)の中の言葉を引用するなら「文明と自然の対立がなくなった」ことになる。だからこそシェフルイ(捕食者)とセバスチャン(被捕食者)の争いを描かなかった。そう考えると納得だ。それこそが、アニメと実写の相違として製作者側が強調したかった点なのだろう。

いろいろ書きすぎたが総評するとかなり「評価の難しい作品」だと思う。私自身、この作品は嫌いだ。ディズニーは強い女性像としてのアリエルを描いてしまった。世の中には強い女性(あるいは強くありたいと思っている女性)もいれば素敵な王子様に憧れる古典的な女性(あるいは古典的でありたいと願う女性)もいる。多様性とはありとあらゆる価値観である。ならば「女性は強くあるべきだ」という思想を押し付けるような行為は残念ながら多様性とは言えない。しかし、本作は文明と自然の共存を現代的に描ききったという点では評価に値するだろう。

この作品に点数は付けないでおく。スコアがいくつでもしっくりこなかったので…