ドーナツ333

婚約者の友人のドーナツ333のレビュー・感想・評価

婚約者の友人(2016年製作の映画)
3.1
第一次大戦後のドイツとフランスを舞台に、戦争で婚約者を失った女性の姿を描いた人間ドラマ。
フランソワ・オゾン監督の作品は「8人の女たち」が好きだったので、度々鑑賞しています。
今作も、戦争を題材にした鮮烈な描写、意外な広がりを見せるストーリーなど、監督独自のセンスが随所に光っていました。ただ全体的に静かで淡々とした、ヨーロッパ映画らしい作品のため、エンターテイメントを求める人には向かないと思います。

あらすじ:
第一次大戦後のドイツ。婚約者のフランツを亡くした主人公・アンナは悲しみの日々を過ごしていた。

そんなある日、アンナはフランツの墓の前で見知らぬ男・アドリアンと出会う。アドリアンは戦前にフランスでフランツと知り合った友人だという。
アドリアンの語るフランツとの友情の物語に心を癒されるアンナとフランツの遺族。やがて、アンナはアドリアンに特別な感情を募らせるようになる。

しかし、アドリアンは突然アンナに真実を告げ姿を消してしまう。複雑な感情に苦悩するアンナはアドリアンの後を追い、フランスへと旅立つのだった。

感想:
ほぼ全編モノクロの画面で描かれており、演出やカット・テンポ感などで古典作品へのリスペクトが強く感じられる映像になっています。最新の映画ですが、どこか懐かしい感じもあって面白いです。
婚約者を亡くした主人公のアンナは、徹底して黒の喪服をまとっており、モノクロの画面にすんなり溶け込んでいます。その中で時折挟まるカラーシーンは、まるで喪に服す彼女の心が色を取り戻したかのように鮮やかで、とてもエモーショナルに感じられました。

ストーリー面では、下地となる戦争の爪痕の描写が心に残りました。
戦争で最愛の人を失った主人公と遺族。心や体に深い傷を負った登場人物たち。荒廃した街並みと生活。過度に高まる敵愾心と愛国心。
細かな描写が至る所に散りばめられ、過酷な戦争の現実、被害の重みについて強いメッセージ性を感じました。

また本筋の物語では、主人公・アンナの力強さが魅力的でした。
悲しみに暮れるアンナの生活は、婚約者の友人・アドリアンの登場で大きく動き始めますが、彼は1つの大きな嘘をついていました。その結果、アンナはとても重い枷を抱え込み苦しむことになります。

アドリアンは子供のような純粋さを持つ反面、悪く言えば空気の読めない、無自覚に自分勝手な人物に感じました。
物語の中盤以降はアンナがアドリアンに振り回される展開が続き、元々最大級の被害者であった彼女がさらに追い込まれていきます。
アドリアンの苦しみ、気持ちも理解はできるものの、結果戦争を生き残り気持ちも満たされた彼と、そんな彼の分まで負を背負んだアンナとを比べると、本当に皮肉に感じられます。

それでも、都度苦しみを乗り越え、罪を赦し、少しずつ色を取り戻していくアンナの姿はとても力強かったです。
意外なほど前向きにまとまったラストシーン。アンナの覚悟のこもった姿に、観ている自分自身も少し勇気付けられる思いがしました。

まとめ:
演出や描写、メッセージなど、独自の視点やセンスが魅力的な作品でした。
モノクロ時代の映画を思わせる古風な表現は、今見ると逆に新鮮にも感じられて面白いです。
主人公・アンナの成長、力強さにも惹きつけられるものがあります。
一方、一貫して静かで落ち着いた描写、スローテンポな展開が続くため、エンターテイメント色の強い映画と比べると冗長で間延びした印象も受けました。
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