マクガフィン

オール・アイズ・オン・ミーのマクガフィンのレビュー・感想・評価

3.3
25歳の若さで亡くなったヒップホップ界のレジェンド、2PACの生涯を描いた伝記映画。

前半は、幼少期からデビューまでが淡々と丁寧に描写され、クラックブームと呼ばれる犯罪とクラックが蔓延する時代背景、母がブラックパンサー党の政治活動メンバー、劣悪な生活環境、文学への傾倒、ラップや詩の才能などの影響により、2パックの音楽に影響を及ぼしたことの背景を積み重ねるテイストはブラックムービーに。
しかし、ドラッグの売買をしていた筈なのに、そこはスルーしているのは都合が良過ぎないか。

ギャングスタ・ラップのコミュニティー内に存在するカルチャーが飛躍した背景に政治、犯罪、人種差別などの問題があるのだが、ギャングスタ・ラップの攻撃性や時代背景が2パックに良くも悪くもマッチしていると感じる。

母もそうだが、黒人の現状や地位向上を訴えるのは偉大なことだと思うが、母は黒人間の麻薬売買が蔓延する背景の中で麻薬に溺れ、2パックは黒人間での金や権力争いで、結局、黒人同士で足を引っ張り合っているのは、如何とも。

また、極悪レーベルで同じ人種のデス・ロウに所属する判断の善悪や、真相は未解決だが、銃撃事件は対立するレーベルのバッド・ボーイの陰謀だと疑い、アメリカ東西海岸ヒップホップ抗争にいたる経緯は、訴えることの大きさに反するコミュニティー内で反目し合う構図や、2PAC自身により極端な思い込みによる人間の価値を狭くしているとしか思えなく、何とも言えない寂しさを覚える。

2パックの社会に対する怒りや未知なる創作への情熱がそのまま権力への反逆に込められているラップは、貧困からのサクセスストーリーと相性が抜群に良く、映画館ならではの音の迫力を十分に味わえる。

警官のアフリカ系アメリカ人に対する暴力は今も変わらなく、アメリカ社会の人種差別の根深さを炙り出す。
バッド・ボーイ・レーベル側から描いた映画も見たい。