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冷たい熱帯魚のyuseのレビュー・感想・評価

冷たい熱帯魚(2010年製作の映画)
4.1
何だかんだで園子温監督映画は初めての鑑賞。
前評判でエログロで暴力シーンの多い映画と聞いていたが、確かにグロいシーンは物凄く刺激が強く、こういった映画は久しぶりに観たのでメンタルにグッときた。
何と言っても、でんでんの強烈な演技には脱帽するしかない。
この映画のテーマは家族と力社会のお話。家族をないがしろにする闇組織の恐ろしさと、ドロドロしたビジネスとお金周りの話は、色々と良い意味でウッとくる内容が多かった。その辺りを上手く映画として描ける園子温監督は凄いなと思った。
万人にお勧めできる映画ではないし、観る人によって評価は分かれると思うが、「凶悪」といった暴力系やエログロの邦画が好きな人に超絶薦めたい映画。



↓以下はネタバレを含むレビュー
【Motivation(鑑賞動機)】
最近邦画を観ることが多くて、邦画で有名な監督の映画は観ておきたいと思っていた。その中で、園子温監督と岩井俊二監督の作品は一度も手をつけたことがなかったので鑑賞しようと思った。
特に園子温監督に関しては、Netflix映画で「愛なき森で叫べ」が話題になっているので、その前段階として同監督の名作はさらっておこうと思った。その第一弾として「冷たい熱帯魚」を鑑賞。第二弾は「ヒミズ」を鑑賞予定。

【Looks(世界観)】
舞台は静岡県のとある田舎町、富士山が綺麗に眺められる場所。個人経営の古く薄汚い熱帯魚ショップで主人公の社本信行が経営する「社本熱帯魚店」と、村田が経営する社本熱帯魚店よりは少し規模の大きな熱帯魚店である「アマゾンゴールド」がメイン舞台となる。

この映画の演出が物凄くよく出来ており、一番感動したのが徐々にでんでん演じる村田がやばい奴であることがジリジリ伝わってくる前半のあたりの描写がとても上手かった。そのおかげでとてもストーリーに引き込まれた。そこには、ダンッダンッという不気味な音楽も効果的に使われていたからかもしれない。

あとは何と言っても山小屋でのエログロシーン。周りに聖母の像が置かれている中で、沢山のろうそくに火を灯して死体を細かく解体していくシーンはなんとも斬新で惨たらしいものだが、なんとなく儀式的な感じにも見受けられる。とても観客を飽きさせない工夫があって良かった。
細かい部分になるが、「アマゾンゴールド」でバイトの娘たちが大きな魚に小さな魚を餌として与えているシーンが、物語全体にある弱肉強食のイメージを上手く表していて良かった。

2つ理解出来ていない演出があって、一つは信行が村田を殺した後あたりから一時的に時刻がデジタル式で画面中央に表示された演出。それ以外のシーンでも時刻がよく表示されていたが、そのシーンだけそういった演出を行なったのはなぜか分からなかった。
もう一つは、地球46億年の話。「地球は46億年後に誕生して、今から46億年後に終わりを遂げる」という話。信行にとってその話は現在の妻妙子との初デートで見に行ったプラネタリウムでの記憶。村田に挑発されて豹変する前までの信行の心の拠り所だった。それが、何を意味するのかはっきり理解出来なかった。ラストシーンで信行が自分の首を切って自殺するときに再びその話が出現するし、エンドロールもそれを模して左端に23(46の半分)までの数字を記しながら宇宙柄で表現されているがよく分からなかった(解説サイトで確認したい)。

【Scenario(内容)】
「社本熱帯魚店」を営む社本信行は、再婚した妻妙子と娘の美津子と3人で暮らしている。妙子は喫煙者であり、美津子はそんな後妻の妙子のことを快く思っておらずグレて万引きをしてしまう。そこを「アマゾンゴールド」を経営する村田幸雄が仲介し、娘をバイトとして働かせることで面倒を見て自立させる約束をする。
その要件を承諾した信行だったが、徐々に村田幸雄が妻の愛子と手を組んで、気にくわない者を透明にする(殺して遺体を隠蔽する)ことで業を成してきた人物だと知る。この事を口外したら自分や家族の身が危ないので、信行は黙って幸雄の部下として言う通りに行動していた。
しかし、信行は筒井という顧問弁護士を透明にした帰りに、幸雄に「善人顔した奴が一番嫌い」「自分の力で生きていくことも出来ない」「妙子ともやった」と散々侮辱された結果、怒りに怒って幸雄を殺してしまい豹変する。
社本家に戻ってきた信行の、妙子や美津子に対する接し方は一変し、最後には愛子や妙子までもを殺害して警察を呼び、信行は美津子だけを助けて自殺する。

物語終盤まではストーリーも分かりやすく、ぐんぐん強烈なシーンの連続に引き込まれていった。ラストが意味する所は完全には理解出来なかったが、今まで内向的でロマンチストだった信行は、豹変しても娘を大事に育てたいという愛だけは変わらなかったのではないかと思えてきた。

【Cast(役者・キャラクター)】
まずは何といっても、村田幸雄演じるでんでんの演技は圧倒的に良かった。とても自然な演技で、陽気な外面の人柄とダークな裏の顔を上手く演じ切っており、非常に怖い印象を与えることが上手いなと思った。
その演技力だからこそ、前半のジリジリと信行がどん底に落ちていく恐怖感が作品全体として作れたのではないかと思った。
特に印象に残ったのは、吉田が消息不明になってその弟分たちが「アマゾンゴールド」に乗り込んできたシーンの、チンピラに責め立てられて泣き崩れる演技をするという演技。この辺りも物凄く自然で上手いと感じた。

次に主人公の社本信行演じる吹越満さん。気が弱そうでいつもビクビクしている夫を演じ切っている所がとても雰囲気があって良かった。遺体の異臭に耐え切れず鼻を抑えながら立ちすくむ姿がとても好きだった。デートでプラネタリウムに誘うほどロマンチストで、こじんまりと熱帯魚店を経営しているキャラクターも良い。しかし、幸雄に挑発されて怒りに溢れて豹変した信行も良かった。あれだけギャップがあると、見応えがあってインパクトが伝わる。

あと、幸雄の妻である愛子を演じる黒沢あすかさんの色気ある演技も好きだった。特に、幸雄を半分山小屋で片付けて信行の帰りを待っていた血だらけの姿はとても印象的だし非常にエログロい。信行の白いYシャツを赤く染めるあたりの描写もとても印象的。

【Profound(作品の深み)】
今回の作品のテーマである、家族と力社会についてであろうか。
男社会というものは弱肉強食で、力や権威のあるものが大量のお金や女をせしめて頂点に立ち、弱い者を支配するという構造がこの作品でも見て取れる。歯向かったら家族もろとも殺される。
主人公の信行は、そういう意味でいったら圧倒的に弱者で、自分の足で人を自立させたりすることは出来ない。いつも強者の言いなりになるしかない。
しかし、一度他の女とやったり、殺しをやったりするとスカッとする。今まで我慢して耐えてきた物事を清算してくれる。それに気づいた途端、力と権威の欲しさに目が覚める。しかし、そこから後戻りは出来なくなる。信行は勢いで妙子も殺してしまったし、愛子も殺してしまった。
だから最後は、娘の命だけを助けて後のことは全部娘に任せて自分は自殺の道を選んだのではないかと思った。

【Impression (印象深いシーン)】
一番はやはり山小屋で吉田を解体するときのシーン、あの強烈さは半端ない。それと、愛子が風呂場で幸雄を解体している際に、信行にすり寄ってYシャツを赤く染めるのもとても印象的。
緊張感伝わるシーンで言えば、吉田の弟分が「アマゾンゴールド」に乗り込んでくるシーン、信行がヘマをするのではないかとヒヤヒヤするシーンは物凄く引き込まれて良いシーンだった。
また、筒井の遺体を放流した後で、幸雄が信行を執拗に責め立てるシーンもインパクトがあって印象に残った。あそこまでケチョンケチョンに言われたら誰だって挑発させられる。
あとは、序盤で幸雄が妙子を口説いて性行為するシーンも個人的には印象に残った。あの辺りから、幸雄のヤバさがジワジワ伝わってくるのが、この作品の引き込まれポイントだった。

【Comments(その他総評)】
この映画の引き込まれ度合いは半端なく、連続的に強烈なシーンが迫ってくるのでとてもウッとくることが多かった。ただ、やっぱり園子温監督作品に慣れてないせいか、地球46億年の描写や時刻がデジタルで表示される演出の意図が分からなかった。そこまで一発で汲み取れれば、この作品の面白さをもっと引き出すことが出来たのかもしれない。
とにかくキャスト陣の演技力(特にでんでん)といい非常に刺激の強い作品で個人的には好みだった。
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