とむ

シリア・モナムールのとむのレビュー・感想・評価

シリア・モナムール(2014年製作の映画)
3.3
内戦により殺戮や暴力・凌辱、破壊がはびこり多数の人々が過酷な日々を強いられているシリア。市民が現地の惨状を携帯のカメラなどで捉えた、報道では決して流されることのない生々しい映像がつなぎ合わされ、パリに亡命した監督と国内で撮影を続ける女性との間でそれぞれの思いや問いかけが交わされていく。

銃撃によっていともたやすく奪われる命。流れ出る鮮血。傷付けられて冷たくなった肉体。悲鳴や怒号、泣き叫ぶ声。そんな地獄のような状況に訳も分からないまま巻き込まれて苦しめられる、最も不幸な被害者は無辜の子供たちや動物たちだ。

唐突に失われることとなった幼子たちの元気な笑顔。戦火の中で生き延びている少年は、そんな苦難に満ちた環境に置かれていても身の周りの物事に対する子供らしい好奇心を忘れることはない。

銃声が轟く瓦礫の山の中では、何匹ものやせ細った野良猫が身の置き所を求めてさまよい歩いている。足を失った猫や負傷し鳴き続ける猫。致命的な傷を負いながらも倒れることのない猫。他の猫の死骸に寄り添う小さな猫。動物たちは誰を呪うわけでもなく自分が立っているその場所で懸命に生きようとしている。その姿は健気であまりにもいたわしく、まざまざと頭に焼き付いて消えることがない。

遠く離れた国の暗澹とした現況に思いを馳せる。その渦中にあっても人間は愛や望みを信じて生きていけるのだろうか。その勇気を持つことは少なくとも今の自分にはとてもできそうにない。

映画館を出て明るい光に照らされた渋谷の街中を眺めやる。行き交う人々の姿。目の前の変わることのない平穏な情景と今しがた目にした悲惨な光景のイメージが重なり、胸が重苦しくて仕方がなかった。
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