あでゆ

透明人間のあでゆのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
3.8
◆Story
天才科学者で富豪のエイドリアンの恋人セシリアは、彼に支配される毎日を送っていた。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズの家に身を隠す。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトムから、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるが、彼女はそれを信じられなかった。

◆Review
いわずとしれたホラー作品『透明人間』、あるいはケヴィン・ベーコンのスリラーとして知名度の高い『インビジブル』のリブート作品。

しかし、本作では敢えて透明人間サイドを描かず、その被害者の視点を中心に据えることで、透明人間を素直に、正体のわからない恐怖の対象として描いてみせる。
単に自らを襲ってくるのであればよいのだが、前半に関してはネチネチと陰湿な攻め方を行うことで文字通り外堀を埋めていくように主人公を追い詰めていく。

このあたりはストーカーものとしての面白さもあり、精神的ホラーとして十二分な出来になっていた。屋根裏部屋や脚立の使い方など、敢えてポイントを外すことで恐怖を煽る演出もウマいと唸らされる。

「透明人間」の現代的な解釈も素晴らしく、大量の”目”がついたスーツはこちらから見ることは出来ないのに、いつどこで見られているかわからないというネット社会を通じた現代的な恐怖心を暗喩するものになっている。
思い返せば、レストランで透明人間のことを話そうとしたときに本人が見ているというのも、外で他人の噂話なんてするもんじゃないというメタファーにも思えてくるかもしれない。
ちなみに、物語冒頭でよく見るとすでにこのスーツに関する伏線がはられているのもウィットに富んでいた。

しかしストーリー後半の展開にはやや物足りないところがある。
というのも、病院で一度反撃を受けてからの透明人間は、明らかに過剰にやけっぱちになっており、無駄な証拠や殺人を犯してしまう。
これらが透明人間は実際にいるという証拠を強固にするものになっていて、結果的に主人公を助けている形になっているのだ。
確かに物語の都合上、そうしないと勝ち筋がないので仕方ないのだが、このあたりは二重に罠を張るなどして、もう少しスマートに対応してほしかったところである。

これは完全に個人的な感想だが、主演を演じる『ハンドメイズ・テイル』でおなじみのエリザベス・モスは容姿端麗というわけではないと思うのだが、彼女の正常時の内面的描写も薄いために、透明人間が極端に彼女に固執する原因がわからなかった点はやや気になった。
とはいえ、サイコDV野郎が自分の思い通りになる女を手放したくないというのは、まあそういうこともあるよねという気持ちもわかるのだが。
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